◆ひな型なく工程曲折/「初号機」の知見 展開を
8月14日午前9時、福岡市内にある九州電力中央給電指令所――。需給盤に表示された指令値「45」(メガワット、4万5千キロワット)めがけ、出力が上下動を始めた。固唾(かたず)を飲んで見守っていた所員が「川内1号機9時並列です」と宣言した。玄海原子力発電所4号機が定期検査で停止して以来、約3年8カ月ぶりにエリア内に原子力の灯がともった瞬間だった。
時を同じくして、川内原子力発電所の中央制御室では誰とはなしに自然と拍手が湧いた。ただ、どこにもゴールにたどり着いた感慨はない。
「まだまだ気の抜けない日々が続く」――。九州電力の関係者はこう口をそろえる。長期停止したプラントの再稼働という意味に加え、これまで規制に翻弄(ほんろう)されてきた経緯が楽観を許さない姿勢を生んだともいえる。
◇総勢530人で
川内1号機の合格証に当たる「審査書」が正式に決定し、原子炉設置変更許可が下りたのは2014年9月10日。報道では工程が変わるごとに再稼働の「予定日」は変わり、この時は「年内は困難」の文字が躍った。
新規制基準適合性審査に専念するため、九州電力は13年7月から都内に「東京支社第二分室」を構えた。当初40人だった人員は徐々に膨れ上がり、設置変更許可の受領直前には「第三分室」を開設した。
工事計画認可(工認)と保安規定変更認可への対応強化を目指し、最大時には東京の約260人と他本部からの応援者約100人(福岡)を含む総勢約530人の体制を敷いた。文字通り総力を結集し、昼夜の別なく対応に当たった。
設置変更許可はもちろん、工認が下りるまでにも様々な曲折があった。優先プラントに選ばれ、再稼働一番乗りが確実視されていただけに、補正作業では「ひな型」がない中での厳しい対応を迫られた。こうした事情は審査を担う原子力規制庁も同様で、「当初はどのように進めたらよいのかお互いによく分からない部分もあった」(九州電力関係者)という。
基準地震動(Ss)の引き上げに伴い、耐震強度など膨大な計算・解析の必要性が生じた。地震だけではない。新規制基準では津波、火山、竜巻などその他の自然現象も対象になる。工認が下りなければ次の段階となる使用前検査の受検申請を行うこともできない。
結局、九州電力は工認の補正書を4度提出。認可が下りたのは、今年3月に入ってからだった。総量も補正のたびに増え申請時の5千ページから最終的に1号機だけで3万ページにも達した。
◇楽観許さず
工事計画通りに機器が設置されているかを確認する使用前検査でも初めのうちは齟齬(そご)が目立った。規制庁は九州電力が示した工程が「楽観的すぎる」とし、「できるならできる、できないならできないと早めに言ってほしい。規制資源は公共財。いい加減な工程では許されない」と語気を強めた。
原子力規制委員会の更田豊志委員は「期限が来たら検査未了という形で検査官が引き上げることもあり得る」とまで明言。九州電力の中村明上席執行役員(現取締役・常務執行役員)らは検査の物量が確定しない中で工程を明示しなければならないという、難しい舵取りを迫られた。
再稼働が秒読みとなった6月以降は、検査に大きな遅れはなく、保安検査の一環として実施された起動前の総合訓練もクリア。設置変更許可から数えて約11カ月が経過していた。発電再開を受け、九州電力は今後8月25日に定格熱出力一定運転に移行し、総合負荷性能検査を受検。9月上旬にも営業運転に復帰する計画だ。
申請書の提出や審査・検査のスケジュールは延期を繰り返し、その都度厳しい批判にもさらされた。しかし、九州電力の「生みの苦しみ」は玄海3、4号機のみならず、後続の他社にも知見として共有される。「これからはスピードアップできる」(田中俊一委員長)との言葉通り、迅速・効率的な審査が望まれる。(特別取材班)
(電気新聞2015年8月19日付1面)