◆三菱重工とPWR4社/課題共有、支援手厚く
東京電力福島第一原子力発電所事故が起きた2011年3月11日。その日以来、PWR(加圧水型軽水炉)メーカーの三菱重工業は九州、関西、四国、北海道の電力4社と共に、再稼働への道のりを歩んできた。
◇強い危機意識
事故当日から三菱重工内に対策本部を設置。600人規模で地震・津波からプラントを守るための検討を開始した。
BWR(沸騰水型軽水炉)の福島第一では、全交流電源喪失(SBO)と炉心冷却機能の喪失が致命傷になった。
「PWRでもSBOは起こり得る」。三菱重工エネルギー・環境ドメイン原子力事業部の加藤顕彦事業部長代理は、強い危機意識が根底にあったと振り返る。格納容器の大きさなどPWRの優位性を踏まえつつ、「弱い部分の対策をきっちりとっていこうとした」。
同年8月には、神戸市の原子力部門に司令塔として「安全高度化対策推進室」(20人)が発足する。今年3月まで室長を務めたのが加藤氏だ。
推進室では社内関係部署などと連携し、国の指示や電力会社からの要望を反映しながら、緊急安全対策と再稼働に向けた短期対応、ストレステスト(裕度評価)対応を実施。並行して、中長期的な安全性向上対策を検討した。毎朝の定例会には各部課からキーパーソン80~100人程度が参加、情報を共有し、課題を巡り話し合っている。
◇最大限の対応
地震・津波などの設計基準を強化し、多重の過酷事故対策を要求する新規制基準が施行された13年7月。九州電力川内原子力発電所1、2号機をはじめ4社・12基のPWRについて新規制基準適合性審査の申請が行われた。
移動式電源車の配備や空冷式非常用発電装置の高台設置、重要機器エリアの水密化、冷却用水源の確保、仮設大容量ポンプの配備……。数々の対策が三菱重工の「最大限のバックアップ」(加藤氏)の下で練り上げられ、申請時点までに多くを実施。また、特定重大事故等対処設備(大容量電源、フィルター付きベントなど)が中長期対応として検討された。
申請に際しては、炉心損傷防止、格納容器破損防止といった重大事故対策の有効性評価の結果を示す書類が必要だった。
(1)重大事故の流れに沿って約20事象を選定(2)各事象への対策立案(3)プラント特性を踏まえた条件設定やモデル化を行い、解析する――が有効性 評価の手順。一つ一つの事象の「不確かさ」に関する感度解析も行うため、1プラント当たり半年程度を要する。「電源車の容量は十分か」「ポンプの水量・吐出圧力は十分か」など様々な問いへの答えは、この膨大な作業を通じて明らかにされた。
審査対応のため、電力各社は東京・六本木の原子力規制委員会近くに分室を構えた。
電力会社が策定した評価基準(基準地震動、基準津波など)に基づく設備評価を受け持った三菱重工も、各社を迅速に支援しようと近辺に分室を設置。質疑応答資料は基本的に神戸で安全高度化対策推進室を中心に作成し、10台に増強したテレビ会議システムを最大限活用した。また、PWR電力4社が一堂に会する3つの情報連絡会を毎週開催し、懸案の共有と対応方針の協議を行った。
◇安全性を追求
川内1、2号機は14年3月、審査の優先プラントに決定。9月10日、合格一番乗りを果たした。続く工事計画認可の補正作業も難航し、規制委側からの厳しい指摘をクリアし認可を取得できたのは、1号機が今年3月、2号機は5月だった。
この間、三菱重工は九州電力の審査・ヒアリング対応を手厚く支援する一方、優先プラント決定後に配管サポート、電気式水素燃焼装置(イグナイタ)の追加設置、外部火災防護、原子炉水位計耐震化など約60件の工事に確実に対応。3月に始まった使用前検査にも要員約60人を派遣した。
川内1号機の再稼働が目前に迫った7月下旬。加藤氏は「ヤマ場の連続だった。よくここまでこぎ着けた」と感慨を漏らした。同時に、川内をひな型に後続プラントの審査が効率よく進むことを期待する。現在も3700人を超える体制で、「世界最高水準の安全性」を追求し続けるメーカーの思いがにじむ。(特別取材班)
(電気新聞2015年8月20日付1面)