エネコミ

2016年6月配信

2015年 8月24日
[連載]原子力再生へ 川内1号機再稼働(5)

◆再生へ歩み出した九州電力 「国益」使命に総力挙げ

 「日本の現状を勘案すると、当分の間は原子力を活用する必要がある」。昨年11月7日、九州電力川内原子力発電所の再稼働同意を表明した鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、原子力の必要性を問う報道陣の質問に自信を持って答えた。それまでの定例会見でも、原子力に否定的な質問が大勢を占めたが、エネルギー事情に造詣が深い伊藤知事は「原子力を使わざるを得ないのが日本の立場」などと一貫して主張し続けてきた。
 日本のために再稼働を――。九州電力の考えも同じだ。「日本のエネルギーを考える上で安全を大前提にした原子力の再稼働は必要不可欠。ここで川内が動かなければ、続くユニットはない」(瓜生道明社長)。時代変化の中でも変わることなく、エネルギーを安定して供給するという思いが込められた同社のブランドメッセージ「ずっと先まで、明るくしたい。」にも通ずる。

 ◇「ゼロ」の影響
 九州、ひいては日本への思いを胸に、九州電力が「経営の最重要課題」(瓜生社長)として取り組んだ原子力の再稼働は、決して平たんな道のりではなかった。再稼働が遅れれば遅れるほど、「原子力ゼロ」の影響が社員らを苦しめていった。
 象徴的なのが、原子力の代わりに供給力の大部分を担った火力発電所の現場だ。予算が限られる中、重負荷期には土日などの需要が低い日に、トラブル未然防止のため簡易補修を実施。設備巡視などは昼夜を問わず継続しており、持てる戦力を総動員してトラブルの最小化を目指した。管理職やグループ会社なども交え、様々な視点からパトロールし、不具合の早期発見に神経をとがらせる毎日が続いた。この間のプレッシャーは計り知れない。
 安定供給継続のほか、経営層を悩ませたのが会社の根幹となる収支・財務状況の悪化。2010年度末に24.9%あった自己資本比率は、8.1%(今年6月末時点)まで傷んだ。収支対策として13年度に行った電気料金値上げのほか、修繕費の削減や資産売却などの徹底した合理化を行い、初めてとなる年間を通じての賞与ゼロも実行。さらに14年度には、日本政策投資銀行に対して議決権のない優先株総額1千億円を発行するなど、収支・財務面であらゆる方策を総動員した。
 ただ、万が一のリスクケースとして選択肢を残していた料金再値上げだけは、現在まで実行に移していない。工事計画認可(工認)の度重なる補正申請など、先の見えない苦しい局面は幾度となく訪れたが現行料金を維持し続けた。電気料金の値上げは九州経済に大きな打撃を与える。瓜生社長は「(値上げは)経営者として最後の手段」と強調する。

 ◇強み生かして
 今後は息つく間もなく、川内2号機や玄海原子力発電所3、4号機の再稼働対応のほか、来年度の小売り全面自由化も控える。一度値上げしたにもかかわらず、モデル家庭では電力10社中2番目という低廉な料金水準。九州域内、域外における同社の出方を注視するライバルは多いだろう。
 出光興産、東京ガスとともに手掛ける千葉県袖ケ浦市の石炭火力は20年代の運転開始予定。域外電源が完成するまでは、残りの原子力再稼働をにらみながら、九州から関門連系線を通じた小売りも検討を進めている。小売り全面自由化では、全社員がこれまでに実践してきた徹底的な効率化や、地域に根差した顧客本位の姿勢が生きてくる。原子炉設置変更許可の手前まで進んだ玄海3、4号機についても早期再稼働が望まれる。社内からは「川内で苦労した『強み』を生かさなければ」との声も聞かれる。

 ◇問われる真価
 もちろん、全ての事業活動は原子力発電所の安全性が伴ってこそだ。瓜生社長は原子力安全について「規制要求にとどまらず、自主的かつ継続的に取り組む。電力の安定供給と並ぶ、九州電力のDNAとして組織に埋め込みたい」と度々強調する。
 終わりなき安全性の追求にどう向き合い、再稼働のトップバッターとして、どう行動していくのか――。九州電力の真価がこれから問われていくことになる。(おわり)
 (この連載は一場次夫、塚原晶大、稻本登史彦、近藤圭一が担当しました)

(電気新聞2015年8月24日付1面)