出力の不安定な再生可能エネルギーの調整役として、石炭火力発電の運用変更を迫られる可能性が高まっている。再生可能エネルギーが増加したドイツでは、ベースロードを担うはずの石炭火力発電の出力を、10%程度まで落として運用する傾向が定着。負荷変化率が高い発電所しか売電できないなど、運用による差別化も進んでいる。関係者の間では「日本でもこの先、数年で負荷調整を要求される」との声が上がる一方、安全面やコスト面で多くの課題も指摘されている。
今月8~9日に都内で開かれた火力原子力発電大会東京大会(主催=火力原子力発電技術協会)。伴鋼造会長(中部電力取締役・専務執行役員)のあいさつをはじめ、シンポジウムなどで際立ったのが、石炭火力発電に求められる役割の変化に関する話題だ。
石炭火力発電は燃料費が安く、動かせば動かすほど利益を生む。そのため、本来は原子力発電とともにベース電源として使われてきた。ただ、太陽光発電など出力が不安定な電源が増えると、出力が急激に上がる昼間などは吸収しきれなくなり、石炭火力発電の出力を落とさざるを得なくなる可能性もある。
この問題で悩んでいるのは、再生可能エネルギー先進国のドイツだ。ドイツは再生可能エネルギーを優先的に使うため、天然ガス火力発電などコストの高い電源は損益分岐点の枠から押し出され、石炭火力発電もフル稼働することができなくなっている。現状では褐炭が燃料の火力発電がかろうじてベース電源の役割を担っている状況だ。
◇安全とコスト課題
9日のシンポジウムで元東京大学生産技術研究所特任教授の金子祥三氏は「再生可能エネルギーを優先するドイツでは、コストの高い天然ガスにはほとんど声が掛からない。負荷を調整する石炭も負荷変化率が高いとランクが上がるため、各発電所が競って負荷変化率を上げている」と話す。
ただ、石炭火力発電は設備の規模が大きく、負荷を上げるスピードが遅いほか、そもそも石炭をいったん粉にする時間もかかる。石油、ガス火力発電と比べて負荷調整に向いていない石炭火力発電の負荷変化率を高める上で課題になるのが、安全とコストだ。
本来、石炭を砕くミルは安全確保のため2台運転が常識だが、ドイツなどでは最低負荷を10%まで下げるため、「1台運用が常識になりつつある」(金子氏)という。シンポジウムでは、この点について、安全面に厳しい日本では適用しづらいとの意見が相次いだ。
負荷調整のもう一つの課題であるコスト面に関しては、ドイツで負荷変化率の高い石炭火力発電所でさえ、赤字に苦しんでいるという実情が端的に示している。欧州では系統の調整力に値段をつける動きもあり、シンポジウムに参加した東京大学生産技術研究所の荻本和彦特任教授は「安定供給にとって必要ということが、どれだけ価格シグナルに乗るかが課題だ」と指摘する。
◇系統安定化へ切実
金子氏は負荷調整への対応を切実な問題として捉え、「既設火力の研究開発を怠らずやる必要がある」と呼び掛ける一方、石炭ガス化複合発電(IGCC)の普及を急ぐべきとも説く。IGCCは設備がコンパクトであるほか、石炭をあらかじめ粉砕して搬送するシステムのため「本質的に負荷調整に向く」(金子氏)からだ。
シンポジウムのコーディネーターを務めたMHPSコントロールシステムズの黒石卓司顧問は、負荷調整の際はもともと電力が必要とされておらず、停止しても問題ないというドイツの考え方を紹介。「電力会社は勇気を持ってやらないと、これから系統が持たない」と訴えた。
(電気新聞2015年10月19日付3面)