◆「脱石炭」に踏み越むも不確実性残る
英国のラッド・エネルギー・気候変動相は先週18日、エネルギー政策に関する新たな方針を発表した。発電分野では天然ガスと原子力を将来の中核と位置付ける一方、石炭火力は原則2025年までに閉鎖することを表明。今月末からパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)を目前に環境対策で一歩踏み込んだ形だが、現地報道などでは石炭火力をガス火力に置き換える電源投資が円滑に進むかどうかは「不確実」と指摘する声もある。(新田 剛大)
ラッド氏はロンドンの土木技術者協会で行われた講演で同方針を表明。石炭火力の閉鎖に関しては来春からコンサルテーション(意見聴取)を進める意向を示した。
◇株価急落招く
二酸化炭素回収・貯留(CCS)付きの設備は否定していないが、講演では石炭を「最も炭素集約的で、大気を汚染する化石燃料」とするなど厳しい表現が目立つ。「脱石炭火力宣言」とも取れる内容に、18日の講演後には石炭火力の発電事業者の株価は急落した。
英国のエネルギー政策に詳しい関係者は、石炭火力の閉鎖方針に2つの背景があると指摘する。1つは08年に施行された英国の気候変動法で、50年までに温室効果ガスを1990年比80%削減する目標を規定した。
もう1つが欧州連合(EU)大の大気汚染に関する規制。大規模プラントの排出物質を規制するEU指令が来年から強化され、既設火力も23年までに厳しい基準に適合するか、廃止するかの決断を迫られることになる。
こうした流れに加えて発電設備の経年化が進む事情もあり、新方針の発表前からエネルギー・気候変動省(DECC)が示していた電源構成の見通しでも、石炭火力の比率は15年の36.7%から25年に1.7%まで減少すると試算。新たな方針は既定路線を若干加速するものといえそうだ。
閉鎖に向かう石炭火力の代替として期待するのは、まずガス火力。英国では北海油ガス田の生産減少などで、天然ガスの輸入依存度が現状の約50%から30年に75%まで高まるとの見通しがある。しかし、ラッド氏は講演の中でシェールガスに言及。非在来型資源の開発促進によって、ガスシフトを進めつつエネルギー自給率の低下を食い止める考えも示された。
同様に原子力についてもガスと並ぶエネルギー安全保障の中核と表現。「原子力の反対論は科学をミスリードする。安全で信頼可能だ」と述べ、ヒンクリーポイントC、ウィルバ・ニューウィッド、ムーアサイドといった新規地点の計画も引き合いに低炭素電源としての役割の大きさを強調した。
◇懐疑論根強く
ただ、英国内の報道では、ラッド氏の方針に対する懐疑論も出ている。有力紙ガーディアンは18日付のコラムで、ガス火力新設を後押しする要素に同氏が触れた「容量メカニズム」への懸念を示した。卸電力市場の価格が低迷する中、新規電源投資の実現には発電量ではなく「容量(出力)」に応じた経済インセンティブが不可欠。
しかし、このインセンティブが高くつけば、当然ながら電気料金に跳ね返る。そこに国民の理解が得られるのか――。既に化石燃料輸入の増大や再生可能エネルギー促進策で電気料金の上昇が社会問題化する同国では、軽視できない問題だ。
ラッド氏も今後の再生可能エネの主力に期待する洋上風力について、これまでの英国の先駆的な取り組みを誇る一方、「どんな代償を支払っても支援するわけではない」と、今後はコスト削減を促していく方針を示している。
◇選択肢を確保
石炭火力については日本の場合、経年設備でも大気汚染物質の排出低減に取り組んできた経緯があり、英国とは状況が異なる。また、英国のガスシフトも一定の不確実性は否めない。ただ、低炭素化を掲げつつ「エネルギーセキュリティーは第一優先でなければならない」と原子力を含めた多様な選択肢を確保する姿勢には、同国の強い意思が表れていると言えそうだ。
(電気新聞2015年11月26日付2面)