◆サービス多様化、料金巡り混乱も
電力小売りの最激戦区であるニュージーランドで、電気料金の支払いを巡る混乱が一部生じている。競争促進の引き金を引いたのは政府のスイッチング(顧客の購入先変更)支援策だったが、料金プランやサービスの度重なる変更により、請求額の計算ミスなどが発生。需要家の不満がスイッチングに拍車をかけた。海外電力調査会の上原美鈴副主任研究員は「自由化は需要家に電力会社を選ぶ権利を与えるもので、必ずしも競争が激化するわけではない」と述べ、カンフル剤の注入がこうした副作用を生む可能性を指摘する。(小林 健次)
小売り全面自由化が必ずしも競争激化に結び付かないことは欧米の例で明らかだ。その理由について上原氏は、(1)規制料金が安い(2)契約中の大手電力のサービスに満足(2)スイッチング手続きが煩雑--の3点を挙げる。
◇手続き短縮
1994年に自由化したニュージーランドも競争が一時停滞したが、約5年前から電力大手5社の需要家離れが再び進んだ。2013年のスイッチング率は世界で最も高い、全世帯の2割(約35万件)に達した。転機となったのはスイッチング手続きの改善だ。
同国政府は10年、これまで10日間以上かかっていた手続きを原則5日以内に短縮することを法定化した。数週間かかる欧米に比べて圧倒的に短い。さらに、11年には政府が自ら料金比較サイトを創設。全ての小売会社の料金メニューを網羅し、年間支払額の比較からスイッチングまでの手続きを一元化した。
同国政府の調査によると率先してスイッチング先を探す消費者は1割に満たない。それでもスイッチングが多いのは、低価格商品の積極的な売り込みも効いている。電力各社は従量料金制や定額料金制を相次いで導入。契約時にギフトカードや電気料金の割引券を贈るなどのサービスや、ガス・通信とのセット割も一部で始まった。
ただ、競争促進効果の限界も見えてきた。家庭用の料金単価の上昇は止まらず、40年間で約3倍(現在約30セント=24円)になった。電力各社は低価格商品の提供を新規契約者に限定したり、募集する期間や地域を絞り込んだりしてコストを抑制しているが、広告費は増加傾向にある。
◇苦情2千件
また、紛争処理機関に寄せられた苦情件数は年間2千件超と、5年間で3倍以上に急増した。多くは料金の支払いを巡るもので、営業要員が度重なる商品・サービスの変更に対応できなかったことが一因だ。苦情の多い電力会社ほど需要家離れは顕著という。上原氏は「商品・サービスはまねされ、年間支払額は各社とも大差はない。最終的には、顧客対応が重要になる」と指摘する。
[メモ]
スイッチングとは顧客によるサービスや商品の購入先変更のこと。日本では電力小売り全面自由化後、消費者が電気の購入先を変更する場合、小売電気事業者と一般送配電事業者との間で託送契約の変更手続きを円滑に行うため、電力広域的運営推進機関(広域機関)が「スイッチング支援システム」を設ける。
(電気新聞2015年12月2日付1面)