◆円高是正、韓国値上げで
かつて3倍の開きがあるとされ、東日本大震災以降、電力小売り全面自由化や東京電力改革を推し進めるシンボルになった日本と韓国の電気料金格差が、縮まっている。国際エネルギー機関(IEA)などが公表したデータによると、2009年に3.1倍だった韓国との料金格差(家庭用)は14年2.1倍、15年2.0倍と徐々に縮小してきたことがわかった。産業用も09年の2.9倍が14年1.9倍、15年1.7倍まで縮まっている。行き過ぎた円高の是正と韓国電力の相次ぐ値上げが背景にある。(長岡 誠)
TPPの議論とも相まって、エネルギーの世界でも内外価格差が再び注目される可能性がある。しかし、外部要因で揺れ動く"格差"の実態を捉えるのは容易ではない。それを象徴するのが、震災後の数年で大きく変化した日韓の料金格差だ。
日本の電気料金は14年までIEAデータ、15年は東電の値を用い、韓国電力の公表値と比較する形で00年以降の料金格差の推移を調べた。
◇為替
00年以降、日韓の料金格差が最も大きかったのは09年で、家庭用は3.1倍、産業用は2.9倍の開きがあった。家庭用は07年の1.8倍から、わずか2年で急速に差が開き、続く10年、11年も2.7~2.9倍の開きがある状態が続いていた。
この時期、両国の料金格差が開いた要因の一つは為替だ。円の対ドル為替レートは09年の93.57円から10年87.78円、11年79.81円、12年79.79円と急速に円高が進行。対ウォンのレートも09年は前年より3割近く円高にふれた。
円高が進めば化石燃料の購入費用が抑えられ、中長期的には電気料金を押し下げるが、為替換算すれば内外の価格差は広がる。韓国の電気代が安かった背景には、原子力発電所の稼働率が高かったこと、産業競争力の観点から政府が値上げを抑制してきたこともあるが、日本との格差という点では為替の影響も大きかったといえそうだ。
実際、13年以降、日銀の金融緩和によって円高の是正が進むと、日韓の料金格差も縮まっていく。最も円高が進んだ12年と比べて、15年の為替レートは対ドルで約5割、対ウォンで約4割の円安となり、歩調を合わせるように家庭用の料金格差も2.0倍まで縮まった。原子力発電所の再稼働が遅れ、日本の電力会社が値上げを行ったにもかかわらずだ。
◇複雑
両国の格差が縮まったもう一つの大きな要因は、韓国電力の相次ぐ値上げだ。同社は恒常的な赤字体質を是正するため、10年8月以降、家庭用で5回、産業用で6回の料金改定を行っている。累計の値上げ幅は家庭用12%、産業用41%に達する。
日本では震災後の計画停電と東電福島第一原子力発電所事故を契機として、民主党政権下で電力システム改革の議論が急速に進んだ。各社の値上げとも相まって"電力たたき"の風潮が強まる中、「韓国の3倍の電気料金」というフレーズは、事故を起こした東電をはじめとする日本の電力会社を批判する格好の材料としてメディアに取り上げられた。
しかしその後の推移をつぶさにみると、日韓の料金格差は電力システム改革とはなんら関係がない為替の影響や、韓国側の値上げによって急速に縮まっている。電力小売り全面自由化や発送電分離とは無縁の外部要因に揺さぶられ続けた両国の料金格差の推移は、近視眼的な分析だけでは捉えきれないエネルギー政策の複雑さを雄弁に物語っているようにみえる。
(電気新聞2015年12月4日付1面)