(1)安定供給、全社で支える
川内原子力発電所1、2号機の再稼働を果たした九州電力。電力需給面にも大きな影響を与え、今冬は2011年度並み厳寒の場合でも、他電力からの融通なしで予備率は1月に7.8%(予備力119万キロワット)、2月に8.8%(同133万キロワット)を確保できる見通し。一方、電力需給状況の厳しさはいったん緩和される見通しだが、九州電力としては、他エリアの状況なども踏まえつつ、無理のない範囲での節電要請を続ける方針だ。
(2)厳寒でも予備率8%前後
◆無理のない節電要請を継続
毎年やってくる夏と冬の重負荷期に、厳しいといわれ続けてきた九州電力エリアの電力需給。それに大きなインパクトを与えるのが、川内原子力発電所1、2号機(PWR、計178万キロワット)の再稼働だ。2号機(89万キロワット)は11月1日に定格熱出力一定運転へ移行、1号機(89万キロワット)の定熱一定運転(8月31日)と合わせ、178万キロワット超の供給力が加わることとなった。
九州電力が10月30日に示した今冬の電力需給想定によると、2011年度並み厳寒の場合でも、予備率は1月に7.8%(予備力119万キロワット)、2月に8.8%(同133万キロワット)を確保できる見通し。毎年頼っていた他電力会社からの応援融通なしで、瞬間的な需給変動に対応するために必要とされる予備率3%を確保できるもようだ。
電力需給状況の厳しさはいったん緩和される見通しだが、九州電力としては、無理のない範囲での節電要請を続ける。期間・時間帯はこれまで通り、12月1日~来年3月31日までの平日(12月29日~31日までを除く)午前8時から午後9時までとなっている。
冬季の節電で重点的に取り組みたいのが、家庭などで照明や暖房が使われだす午後5~8時の点灯帯だ。この時間帯は、太陽光発電を供給力としてほとんど見込めなくなる。今冬の時間最大電力1515万キロワットの発生見通しも午後6時台を想定しており、その時間帯の太陽光の供給力はゼロと想定された。特にこの時間帯は、経済活動や健康などに支障のない範囲で節電に協力していくことが望まれる。
基本的には、大型火力発電所1基がトラブルを起こしても、3%の予備率は確保できる見通しだが、今回の需要想定は、昨年度の約9割にあたる10年度比マイナス43万キロワットの定着節電を織り込んでいる。節電の機運が減退してしまえば、予備力の低下につながってしまう恐れもある。中西日本地域全体の電力需給を踏まえても、節電の意義は大きい。
こういった状況を踏まえ、九州電力では11月30日~12月2日にかけ、九州経済産業局といった関係行政機関などと節電・省エネ街頭キャンペーンを行った。九州内の支社が立地する8エリアで行い、福岡地区では、渡辺義朗取締役・常務執行役員・営業本部長らがチラシを配布するなどして無理のない範囲での節電を呼び掛けた。九州電力では今後も政府から要請があれば、電気事業者として節電の呼び掛けを続ける方針を示している。
(3)新大分3号4軸試運転へ
◆再稼働で火力順次定検入り
九州電力の火力発電所の状況を見ると、今冬の供給力に影響を与えそうなのが、来年1月の試運転、7月の営業運転に向け、建設工事が進む新大分発電所3号系列第4軸(LNG、48万キロワット)。高効率コンバインドサイクルを採用し経済性、環境性に優れるほか、短時間での起動停止、急激な負荷変化にも対応でき太陽光発電の導入拡大にも大きく貢献する。九州電力が公表した今冬の供給力には織り込まれていないが、1月に始まる試運転の電力は供給力として有効活用することができる。
また、同社の火力発電所では、今年度中に合計9ユニットで定期検査を順次実施する。うち4ユニットは震災特例で定検を繰り延べしてきたもの。中には、2011年から繰り延べてきたユニットもあり、これらについては再稼働にかかわらず秋以降に実施する予定となっていた。
一方、残りの5ユニットは、川内原子力発電所の再稼働次第でスケジュールの組み直しもあり得た。無事再稼働したことで、予定通り定期検査を実施していく方針だ。
そのほか今年度中の9ユニットのほか、3ユニットでは今年度末から年度をまたいで定期検査が実施される予定となっている。
定期検査実施済みもしくは、実施予定の計12ユニットは次の通り。
▽新小倉発電所3号機(LNG、60万キロワット)▽新小倉発電所5号機(LNG、60万キロワット)▽松浦発電所1号機(石炭、70万キロワット)▽新大分発電所1号系列第3軸(LNG、11万5千キロワット)▽新大分発電所2号系列第1軸(LNG、21万7500キロワット)▽新大分発電所2号系列第3軸(LNG、21万7500キロワット)▽新大分発電所3号系列第2軸(LNG、24万5千キロワット)
▽苅田発電所新1号機(石炭、36万キロワット)▽豊前発電所2号機(石油、50万キロワット)▽相浦発電所1号機(石油、37万5千キロワット)▽苓北発電所1号機(石炭、70万キロワット)▽川内発電所1号機(石油、50万キロワット)
(4)2012年2月電力危機
◆応援融通、需給調整で回避
昨冬の九州電力エリアを振り返ると、12月は寒波の影響により、最高気温が平年を下回ったが、1月は平年よりも高い気温で推移。2月上旬~3月上旬は、再び寒波の影響で最高気温が一時的に平年を下回った。こういった中で、時間最大電力は12月17日に記録した1466万キロワットだった。
気温が見通しに比べ高めに推移したことなどにより、電力需給は緩和した。顧客の節電も大きく効き、九州電力によると、2010年度比の顧客別節電効果(期間平均・平日)は家庭用でマイナス4%(21万キロワット)、オフィスビルなど業務用でマイナス12%(53万キロワット)、工場など産業用でマイナス5%(17万キロワット)となった。
「原子力ゼロ」が続いていた中でも、昨年度は大事に至らなかったが、この間、電力危機も発生した。最も電力需給が厳しくなったのが、12年2月3日早朝の新大分発電所(LNG、229万5千キロワット)全基停止時。同社では東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力の電力6社から合計240万キロワットの応援融通を受けるとともに、需給調整契約に基づき法人46社に対して需要抑制を要請し、供給支障に至る事態を回避した。
トラブルが発生したのは、気化したLNG(液化天然ガス)を発電所に送り込んでいる大分エル・エヌ・ジーの燃料供給設備。LNGの流量を調整する圧縮空気を送り込む配管が凍結し、ガスタービンに燃料を供給できなくなった。大分市では当時、気温が氷点下4度まで低下していた。
新大分発電所の緊急停止を受け、九州電力では3日午前3時55分に緊急需給対策総本部を社内に設置、同日午前に東京電力から50万キロワット、中部電力から70万キロワット、北陸電力から5万キロワット、関西電力から50万キロワット、中国電力から55万キロワット、四国電力から10万キロワットの計240万キロワットを受電するとともに、緊急時の「随時調整契約」を結んでいる法人に需要抑制を要請し、供給力が不足する事態を何とか免れた。
(電気新聞2015年12月9日付8面)