◆通期黒字見通しも楽観せず
原子力規制委員会による新規制基準適合性審査を経た川内原子力発電所の再稼働は、九州電力のみならず、日本のエネルギー事業史に残る出来事といっても過言ではない。今年の動きを振り返ると、補正申請を繰り返した1号機の工事計画認可が3月に了承され、使用前検査がスタート。7月の燃料装荷を経て8月14日に並列した。11月の2号機営業運転移行で川内の再稼働プロセスが全て終了。1号機の使用前検査のさなか、4月には鹿児島地裁による川内稼働差し止め仮処分の申し立て却下があった。
川内再稼働は需給逼迫の解消、収支・財務改善などの大きな助けとなっている。九州電力の2015年度中間連結決算は、535億円の純利益を出し、5年ぶりの黒字を記録。燃料費調整の期ずれといった特殊要因はあるものの、川内再稼働に加え、原油価格下落の追い風もあり、必達目標となっていた通期での黒字が見通せる段階にまできた。
一方、現行電気料金の前提となっている玄海原子力発電所3、4号機の稼働がない「異常事態」はまだ続く。川内再稼働で多少明るくなったとはいえ、九州電力社内の空気は引き締まっている。象徴的なのが、今冬の賞与支給見送り。14年夏から支給してきた月例賃金1カ月分の生活支援金についても、1.2カ月分に増額されたのみだ。来年度は川内の定期検査なども控えており、収支は楽観できる状況にない。8.8%(単独、9月末時点)まで落ち込んだ自己資本比率改善にも玄海は不可欠。待望の再稼働に向けては、原子炉設置変更許可の補正申請を提出するため準備が進む。
◇玄海1号廃炉へ
ニュースが集中したのは春頃。3月18日に玄海1号機の廃炉を表明したほか、27日には初の域外電源となる最大200万キロワットの石炭火力を千葉県袖ケ浦市に建設すると公表。出光興産、東京ガスを含む3社で詳細の検討を進め、20年代中頃の運転開始を目指す。
その約1カ月後となる4月30日には、15年度から19年度の5年間を対象とする九州電力グループ中期経営方針を発表。九州でガス販売を含めた総合エネルギー事業の展開を図るほか、海外および域外での電気事業を成長させ企業価値の増大を目指す。30年におけるありたい姿として「日本一のエネルギーサービスを提供する企業グループ」を目標にするとし、瓜生道明社長も「本気で日本一を目指したい」と強調する。
目下最大の課題となっている電力小売り全面自由化に向けた家庭向け新料金メニューの単価などは、年明けに公表される見通し。現状、全国で下から2番目に安い料金水準の同社が、どういった戦略を打ち出すのか、関係者の注目が集まる。
小売り全面自由化やライセンス制導入に向けた組織改正も行った。7月1日付でお客さま本部を配電本部、営業本部に再編したほか、12月1日付で現業機関の配電業務と営業業務を分離する組織改正を実施。8カ所のお客さまセンターを廃止して配電センター、営業センターを設置し、54カ所の営業所を「配電事業所」と「営業所」に再編した。
◇災害対応に奮闘
そのほか、電気事業の宿命ともいえる自然災害との闘いが今年も続いた。8月下旬に襲来した台風15号により、九州全県で最大約47万5千戸が停電する被害が発生。台風で10万戸以上の停電が発生したのは06年の台風13号以来だった。5月末に発生した鹿児島県口永良部島の噴火では、火山観測機器の電源を絶やさぬよう、住民全員の島外避難が続く中、社員らが入島して停電復旧に尽力した。(近藤 圭一)
(電気新聞2015年12月11日付2面)