エネコミ

2016年1月配信

2016年 1月13日
[特集]九州電力社長・瓜生道明氏

(1)"日本一"目指し全力で挑戦
 2015年は経営の最重要課題だった川内原子力発電所1、2号機の再稼働を果たし、5年ぶりの黒字回復、傷んだ財務基盤の回復に向けた一歩を踏み出した九州電力。瓜生道明社長は原子力の安全性向上に自主的・継続的に取り組むとともに、引き続き玄海原子力発電所3、4号機の新規制基準適合性審査に全力で臨む決意を示す。16年4月からの電力小売り全面自由化により本格的な競争時代が到来するのを前に、社員に対して「変化を成長のチャンスと捉え、『日本一のエネルギーサービスを提供する企業グループになる』目標に向かって進んでほしい」と訴える。

(2)競争時代にどう臨む
◆「成長するチャンス」に
 ――15年はどのような年だったか。
 「15年年頭あいさつで、川内原子力の再稼働を全社挙げて実現しようと申し上げた。その当時はまだ胸突き八丁だったが、3月に1号機の工事計画認可を受領し、使用前検査に入った。1号機は8月に発電を再開し9月に通常運転に復帰、2号機は10月に発電を再開し11月に通常運転に復帰した。厳しいスケジュールだったが、本当に全社挙げて、一歩一歩進めることができた。原子力の安全性に関しては、電力の安定供給と同様に、当社のDNAに深く刻みたいと申し上げてきたが、各部門の皆さんがしっかり対応しようという雰囲気が出来上がってきたと思う。いずれにせよ、再稼働はゴールではなく、スタート。原子力の安全性向上の取り組みに終わりがないことをあらためて肝に銘じ、安全・安定運転に努めていく」
 「4月には新しい中期経営方針を発表し、3つの戦略の柱を示した。1つ目は、九州域内は、電気だけでなくガスを含めたあらゆるエネルギーをお客さまに供給する会社になっていく。2つ目は、成長分野である再生可能エネルギーや、域外、海外での事業にしっかり取り組む。そして3つ目は、この2つを全うするために、強固な組織力、事業運営の基盤づくりに取り組むということだ。再生可能エネでは菅原バイナリー発電所が運転開始、域外については千葉県・袖ケ浦で石炭火力発電所の建設計画を進める新会社を設立した。海外事業はコンサルティング中心。コンサルは国や地域、人を知ることにより将来IPPで進出するときの基盤をつくることにつながるのでしっかり取り組み、新規6件獲得という一定の成果を挙げた」
 「組織面では、ライセンス制に対応し、お客さま本部を配電本部と営業本部に分離し、現業機関も分けた。営業本部は電気を売りにいくという本当の営業の形にしたいと思っている。まだ煮詰まってはいないが、徐々にやっていきたいと思っている。社員の皆さんには(部門横断の)CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)で全社戦略を検討して頂いている。14年は19個、第2弾の今年は18個の戦略について、だいぶ検討が進んできた」
 ――16年の展望および重点課題は。
 「4月からの電力小売り全面自由化で、相当厳しい競争環境になるのは間違いない。本格的な競争の時代に向けて、スピード感を持って局面局面で対応してもらいたい。これからは新しい課題が出てきて、過去の経験則が生きない可能性がある。若い人や女性など幅広い皆さんとしっかり議論して対応してほしい。社内には競争に尻込みする、『競争イコール負けるリスク』と思ってしまう人がいるが、今回の規制の変化を自分たちの成長のチャンスと捉え、新グループ中期経営方針に書いているように『日本一のエネルギーサービスを提供する企業グループになる』という目標に向かって進んでいってほしい」
 「20年に実施されるかどうかはともかく、発送電分離になったときの組織をどうするかも、この1年間しっかりと検討しなければならない。あまり時間はない。ある程度組織をしっかりつくっておかないと競争環境の中で生き残れない。(分離した)それぞれの会社が自律的に機能するようにし、一方で全体最適を目指す必要もある。また、送配電会社はより一層中立性が求められるため、組織設計については十分に留意することが必要。詳細設計に時間がかかるが、ある程度助走期間を持ちたいので、あまり悠長に構えてはいられない」
 「(17年に全面自由化される)ガス小売りの体制もしっかり検討、構築したい。いま営業部隊で検討している。一般家庭のお客さまには電気とガスのセット販売でメリットを感じて頂けるようなサービスとしたい。大口のお客さまも取れるところは取りたい」
 ――15年度の業績は中間期で黒字を回復した。16年度の収支の見通しは。
 「あまり好転はしない可能性もある。15年度は川内原子力が半年くらい稼働し収支に貢献した。16年度は2~3カ月程度の定期検査があり、川内の2基が1年間まるまる稼働するわけではない。玄海原子力3、4号機の再稼働の時期次第では、効率化を相当継続的にやらないとそれなりの答え(業績)は出ないのではないか」
 「15年は燃料の値下がりと燃料費調整の期ずれの効果が大きかった。16年もそう大幅に燃料が値上がりすることはないとは思うが、期ずれはなくなってきて場合によっては逆の方向に働く。修繕費もこの4年間無理をして、これ以上延ばせないというものがたまってきている。16年は石炭火力など大型ユニットの定期点検が予定されている。送配電設備にしても(修繕に関する状況は)同じだ」

(3)中期経営方針目標達成へ
◆地熱開発を重要課題に
 ――4月からの電力小売り全面自由化にどのような方針で臨むか。
 「(競合する)各社がどのくらいの値(料金)を付けてくるか。我々としては、付加価値をいかにお客さまに感じて頂くかも大事と考えている。今は値下げをできるような体力はない。ポイントサービスを含め、いろいろなサービスを検討している。(家庭用の離脱防止のためには)新しいメニューを示して、つなぎ留めをするしかない。当社の料金レベルの低さという優位性をどこまで保てるかにもかかってくる」
 ――川内原子力再稼働の意義をあらためて。また、玄海原子力の新規制基準適合性審査の進捗状況は。
 「人類は、現段階で原子力というエネルギーを失えば生き残っていけないという思いがある。ある一定量は原子力発電所を保有しなければならない。我々が川内で失敗したら後続のプラントに迷惑がかかる。社員には、川内再稼働は当社一企業のみならず日本国全体の原子力の行く末を左右するかもしれないので、慎重に丁寧にしっかりとやっていこうと話してきた。そういう意味では、国としてのエネルギーセキュリティーの面から川内再稼働は明るい一歩だと思っている」
 「玄海原子力については、原子力規制庁にある程度の説明資料は渡している。地震・津波・火山はおおむね了解頂き、現地も確認して頂いた。ただ、上物の方がどうなるかが見えない。伊方発電所(四国電力)、高浜発電所(関西電力)の審査書も参考にしながら、自分たちの作っている資料を論点を明確にしながら完成度の高いものにしていく。審査の効率化にも助けになると思うので、もう少しブラッシュアップしていきたい」
 ――原子力のそのほかの課題について。
 「玄海原子力1号機の廃止措置計画を昨年末、原子力規制委員会に提出した。廃炉では先達の日本原子力発電東海発電所や中部電力浜岡原子力発電所1、2号機の例を参考にしながら資料を作成した。使用済み燃料の貯蔵については、プールのリラッキングにより容量を増やすという視点とともに、より一層の安全性対策として乾式という選択肢もあるので、検討を進める。また、川内の特定重大事故等対処施設の設置などについても、昨年末に規制委へ申請を行った」
 ――グループ中期経営方針の目標達成に向けた優先的な課題は。
 「総合エネルギー事業のほか、エネルギーの使い方を診断し提案を行うエネルギーサービスプロバイダー的な仕事をもう少ししっかり進める必要がある。地熱の電源開発も重要だ。九州域内では、南阿蘇村地点と指宿地点で地熱資源調査(地表調査)を実施中だ。南阿蘇村地点は村の事業者公募に応じて三菱商事と共に選定された。指宿地点は市が自前で井戸を掘り、出てきた蒸気を事業者に売るというもので、当社が地元のセイカスポーツセンターと共同受託した。平治岳(ひいじだけ)では調査井を掘削している。しっかり蒸気が出れば、ある程度キロワットも見えてくると思う」
 「域外での地熱については、東京に社員2人を常駐させ、北海道や東北の情報を収集している。なお、有望地点があれば、今後、具体的に検討を進めていきたいと考えている。(地元と協働した)菅原バイナリー発電所という良い成功例があるので、地域の皆さまにお示ししたい」
 ――電力システム改革の進展を見据えた組織改革をどう進めるか。
 「組織が変わったり仕事が変わったりすると、社員の皆さんは不安感を持つだろう。だが、制度の変更というのは先に述べたように成長するチャンスだと捉え、日本一のエネルギーサービスを提供する事業者になる最初のきっかけだという前向きな思いになって頂かないと。いつまでも不安感を持ち、尻込みしていては、物事は絶対に前に進まない」

(電気新聞2016年1月13日付9面)