エネコミ

2016年2月配信

2016年 1月15日
[記者ノート]脱原子力、人材の行く先は

 「ドイツは脱原子力の方針を決めてどうなったと思いますか」。ある原子力分野の大学関係者を取材していたところ、やぶから棒に逆質問を投げ掛けられた。石炭火力比率の上昇、国民のエネルギーコスト負担の拡大――などの影響について答えようとした瞬間、遮るようにこう言われた。「ドイツの原子力技術者・研究者が皆、中国に行ったんですよ」
 中国の液晶、太陽電池、蓄電池産業が急速に発達した背景には、先進国から移籍した技術者の知見が少なからず重要な役割を果たしたといわれる。原子力もまたそうなりかねないというわけだ。
 現にドイツから原子力技術者を迎え入れた中国は、日本より一歩先んじて高温ガス炉による発電を開始しようとしている。
 日本も、原子力技術者にとって厳しい環境が続けば"原子力人材輸出国"に仲間入りするかもしれない。
 世界第2位の経済大国が低炭素の原子力エネルギーを有効に活用していくことは、隣国の日本にとっても広い意味では有益なことだろう。ただ、資源に乏しい日本が積み上げてきた「稼ぐ力」である頭脳を流出させつつも、繁栄を維持する戦略がどれほど描けているだろうか。むしろ「原子力の事業環境を厳しくすれば、おのずともろもろの課題が解決する」といった戦略不在の帰結が、現状ではないだろうか。
 冷笑的に語る教授自身は、「知見の求められるところなら世界のどこでも仕事場になる」といったふうで、日本がどう選択しようと生き残るという、自信のようなものを感じた。黙して彼らの背中を見送ったとき、その代償を払うのは我々自身だ。(海)

(電気新聞2016年1月15日付2面)