電力競争環境下においても使用済み核燃料再処理事業を安定的に進めることを目的とした「再処理等拠出金法案」の全容が21日、明らかになった。法案は計68条の本則と計25条の付則で構成。原子力事業者が再処理費用を積み立てている現行制度を廃止し、発電時に支払う拠出金制度を創設。同時に、実施主体を日本原燃から新設の「使用済燃料再処理機構(再処理機構)」へ移すことが柱。再処理機構内には理事長と外部有識者で構成する「運営委員会」が設けられ、拠出金額決定など重要な意思決定に関与する。新規制基準対応などで一時的に資金不足が生じることも想定し、再処理機構が独自に資金調達できる規定も盛り込んだ。(2面に法案要綱)
経済産業省が同日、自民党経済産業部会と原子力政策・需給問題等調査会の合同会議に条文案を示し、了承された。政府は2月上中旬の閣議決定を目指す。
法案によると、拠出金制度の創設と原子力事業者に対する納付義務付け、拠出金額の決定プロセスなどを4~8条で規定。拠出金額は再処理機構の運営委員会による決議と経産相の認可が必要になる。拠出金制度は再処理費用だけでなく、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料加工工場に必要な費用も対象になる。
新設の再処理機構については理事長と4人以内の理事、監事1人を役員として置く。理事長と監事は経産相が任命。内部に設置される運営委の委員は22条で8人以内と定めた。委員は再処理や電気事業に限らず経済、金融など他分野の専門知識を持つ人材で構成。第三者の視点を意思決定に加えることで適切なガバナンスを確保する。
新規制基準の対応などで一時的に資金需要が増大し、納付された拠出金だけでは事業遂行に必要な費用が不足するおそれもある。こうした資金ギャップを解消するため、51条では再処理機構が経産相の認可を受けて長期・短期の借り入れを行えるよう規定した。
再処理機構が再処理やMOX燃料加工事業の実施主体となるが、42条で原子炉等規制法(炉規法)に規定する再処理事業者(原燃)に対し委託を可能とする規定を明記した。
改正案では、現行の積立制度対象外だったMOX燃料事業費も対象になるため、付則で経過措置を規定。激変緩和措置として原則15年間の分割納付も可能とする。また、積立金方式から拠出金方式への移行後、現在の資金管理法人制度は廃止される。
自民党原子力政策・需給問題等調査会の額賀福志郎調査会長は会合後、記者団の取材に「4月から電力小売り全面自由化が始まる。今回の法案審査も急がなければならない」と述べた。その上で「(国が関与した法人における過去の)失敗を繰り返してはならない。再処理機構の役員、運営委の人選は重要だ」と述べた。青森県選出国会議員は取材に対し、「再処理機構は青森にできると理解している」と語った。
◆再処理等拠出金法案のポイント
【拠出金制度の創設】
・必要な資金は引き続き原子力事業者が負担し「使用済燃料再処理機構」に拠出。再処理のみならず関連事業(MOX燃料加工など)に要する費用も対象
・拠出金額は再処理機構が運営委員会の議決を経て、経済産業相の認可を受けた上で決定する単価に前年度に発生した使用済み燃料の量を乗じた額
【使用済燃料再処理機構(再処理機構)】
・主な業務は拠出金単価の決定・収納、再処理事業などの実施。事業全体を総合的に勘案した実施計画策定
・理事長のほか理事4人以内、監事1人を置く
・重要事項(定款変更・拠出金単価の算定など)決定機関として、外部有識者を委員に含む運営委員会を設置
・運営委員会は委員(8人以内)、理事長、理事で構成。運営委員会の委員は再処理、電気事業、経済、金融、法律・会計に関する専門的知識と経験を有する者で構成。委員長は互選で決定
【再処理機構による借り入れ】
・一時的な資金需要のギャップに対応するため再処理機構による借り入れを可能とする
【経過措置】
・現行制度の下で積み立てた既存積立金については新制度移行後、速やかに機構に移管。移管後は現行の資金管理法人制度は廃止
・新たに納付を求める費用(MOX燃料加工に要する費用など)のうち、法案施行日前に発生した使用済み燃料にかかる費用についても原子力事業者に納付を義務付け。激変緩和措置として一定期間の分割納付(原則15年)も可能
(電気新聞2016年1月22日付1面)