エネコミ

2016年5月配信

2016年 5月9日
[熊本地震]電力各社、相互協力体制が奏功/延べ1500人応援、迅速復旧

◆広域機関情報共有に尽力

 熊本地震による停電の早期復旧のため、全国から駆け付けた電力会社の応援要員が帰還した。本震の発生した4月16日以降、北海道から沖縄までの電力9社から延べ1500人規模が参集。九州電力の系統が復旧するまでの間、発電機車などを活用して電力供給を支えた。電力10社は従来、配電設備が被災した場合の相互応援体制を確立しており、それが円滑に機能したことが迅速な復旧対応につながった。

 今回の地震では九州電力の流通設備が被災し、本震発生後に熊本、大分両県で最大約48万戸が停電した。九州電力は「非常災害時における配電関係復旧応援に関する協定細目」に基づいて各社に応援を要請。他の電力9社全てから復旧作業員や発電機車、高所作業車などが派遣された。

 ◇車両計305台
 特に設備被害が大きかったのは熊本県阿蘇地区。大規模な土砂崩れの影響で同地区につながる6万6千V送電線が使用できなくなった。全国から集まった発電機車が避難所や病院など重要拠点に供給するなどで、20日夜には応急送電を完了した。27日夜には送電線が仮復旧し、発電機車から配電線による供給に切り替わった。これを受けて電力各社の応援要員は今月初めまでに順次帰途に就いた。
 電力9社の応援要員は交代要員を含めて1500人を上回る。中国を除く8社は計1396人。人数と日数を掛け合わせた「人日ベース」でのみ集計している中国電力も、延べ数百人は投入しているとみられる。9社の応援車両は発電機車110台、高所作業車67台、サポート車100台。発電機車に燃料を補給するタンクローリー車などを加えると計305台に達する。

 ◇教訓生かし
 九州電力と9社が交わしていた協定は、配電設備が被災した場合の相互応援について、電力10社の配電部門と電気事業連合会工務部が取り決めたもの。延べ停電戸数736万戸という史上最悪の被害を与えた1991年の台風19号をきっかけに92年制定、阪神・淡路大震災や東日本大震災などでも効力を発揮した。
 また今回の地震では、電力広域的運営推進機関(広域機関)とも連携した。電力各社は2015年4月の広域機関発足を受け、災害時の被災状況や復旧状況などの情報を共有することを協定に明記していた。地震後の対応で両者が連携するのは初めてのことだ。
 広域機関は電気事業法上、需給逼迫時の電力融通を会員である電気事業者に指示するという強い権限を持つ。応援要員や資機材の派遣については「指示」できる範囲に含まれないが、「災害時に広域的な観点から復旧に努めることは重要なミッション」(広域機関)と捉え、必要に応じて協力を要請することとしている。
 今回の地震では、九州電力エリアの主要発電所は被災しておらず、需給バランスは確保されていた。また広域機関の情報収集と並行して、電力会社間による発電機車の応援派遣が始まっていたため、広域機関は現場の妨げにならないよう状況把握と国との情報共有に尽力。必要に応じて協力要請を行える準備を整えていた。
 過去の災害の教訓を生かした電力各社の相互応援体制と、各社に脈々と受け継がれる災害復旧への使命感が迅速な復旧に結び付いたといえる。

(電気新聞2016年5月9日付1面)