◆規制委は「適正評価と認識」
関西電力大飯発電所3、4号機の運転差し止めを巡る控訴審で、前原子力規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏が名古屋高等裁判所金沢支部に提出した陳述書が波紋を広げている。陳述書は、大飯で想定される地震規模を求める際の計算式では「過小評価になる恐れがある」としたもので、原告側はこれを根拠に「基準地震動(Ss)評価が不合理であることは明白」とする。一方、規制委は「大飯の地震動は島崎氏が委員の時代にきちんと判断された」(田中俊一委員長)として、適切に評価されているとの認識を示した。
(塚原 晶大)
大飯3、4号機を巡っては2014年5月、福井地裁(樋口英明裁判長、当時)が運転差し止めを命じる判決を出した。その控訴審の第8回口頭弁論が8日、名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)であり、原告側が島崎氏の陳述書を証拠に「大飯のSsは不合理」だと訴えた。
島崎氏が陳述書で過小評価の可能性を指摘しているのは、断層面積などから地震規模を割り出す「入倉・三宅式」と呼ばれる計算式。Ssを導くための「ツールの一つ」(原子力規制庁幹部)だ。ただし、Ssはこの計算式だけで決まるわけではない。破壊伝播速度や応力降下量といった不確定要素を組み込みながら、敷地への影響が厳しくなるよう設定されていく流れだ。
大飯の地震動評価は規制委と関電の間で激しい議論があった。敷地近傍には「FO―A断層」「FO―B断層」「熊川断層」という3つの活断層があり、その影響を島崎氏や規制庁が懸念したためだ。島崎氏は関電の調査データだけでは納得せず、3つの活断層が連動することを前提とするよう要求。さらに震源断層の深さについても関電が評価した「上端4キロメートル」を受け入れず、敷地への影響がより厳しくなる「上端3キロメートル」へと変更を迫った。結果、Ssは申請時の700ガルが856ガルにまで引き上げられた経緯がある。
当時、島崎氏とともに大飯の地震動審査に当たった規制庁関係者は「島崎氏はもともと、『入倉・三宅式』だけでは非安全側になる可能性があると考えていた。それを補うためにも3連動や震源断層の上端深さで厳しい値を要求し、仕上がりのSsとしては安全側になったという思いが頭の中にあるはず」と話す。
田中委員長も8日の定例会見で「大飯については3連動や断層深さの問題などの議論があった。地震動についてもきちっと島崎さんが判断された」と述べた。実際、島崎氏も陳述書の中で、Ssそのものが過小評価だとは言及していない。原子力関係者からは「原告側が(自説に有利になるよう)"つまみ食い"している」との声も上がる。
関電は原告側の主張に対し、「『入倉・三宅式』を含む一連の地震動評価手法の一部だけ取り上げて、その有効性、信頼性を論じることは適切ではないと従前から主張しており、過小評価でない」としている。原子力施設の耐震設計に詳しい地震工学者の一人は「『入倉・三宅式』では過小評価になるということ自体、科学的根拠に乏しいと考えるが、前委員の見解は影響が大きく、学会レベルで反論する必要がある」とした。
(電気新聞2016年6月10日付1面)