エネコミ

2016年7月配信

2016年 6月14日
[連帯-熊本地震・電力復旧の闘い](1)全国の応援、使命は一つ

◆前例ない大規模応急送電/発電機車169台で支える

 4月16日午前1時25分頃。14日夜の最初の地震による停電(最大1万6700戸)が2時間半前に解消し、落ち着きを取り戻していた九州電力熊本支社を突き上げるような揺れが襲った。再び、熊本市東隣の益城町で最大震度7を観測。14日を前震とする本震だった。
 支社社屋は停電。9階の非常災害対策本部は非常用電源に切り替わったものの、壁に亀裂が入り、防火扉が誤作動するなど混乱の中、居残っていた社員らは全員退避を余儀なくされる。安全を確認し、社屋に戻れたのは午前3時すぎだった。

 ◇約200班態勢で
 この間、本店では配電非常災害対応システムを通じて、午前2時時点の停電戸数を熊本県内中心に47万6600戸と把握。「各配電センターに追加応援の要請を始めていた。スタートは早かった」(時吉敏朗・熊本配電センター長)
 本震発生3時間後には、本店から稼働可能な高圧発電機車を全て熊本へ集めるよう指示が出た。九電工をはじめ委託工事会社の外線班128班(1班=4~5人)にも追加動員を要請。その後も追加され、14日から「居続け」となった30班と合わせ、最終的には九州全域の作業班の3分の2に相当する約200班態勢に増強した。
 さらに電力業界の相互応援協定に基づき、北海道から沖縄まで9電力会社から復旧作業員や高所作業車、応急送電用の高圧発電機車などが続々と派遣された。適宜交代要員も派遣され、応援規模は最終的に延べ1800人規模となった。

 ◇自律的に巡視
 台風とは異なり、限定されたエリアでの甚大な被害。復旧を迅速に進めるには、まず状況を正確に把握する必要がある。
 特に揺れが強かった熊本市内や益城町などを受け持つ熊本東配電事業所。郡山伸一郎所長は直ちに巡視班を編成し、夜明けを待って現場に向かわせた。「配電線自動制御システムが幸いにも正常だった。停電区間は広範囲にわたっていた」。道路の損壊や倒壊家屋、渋滞に阻まれながらも現場を確認。被害の大きい箇所から優先的に復旧作業を始めた。
 災害復旧時には、社員2人と委託工事会社の外線班4班などで「外線復旧チーム」を編成する決まりがある。一定の判断をチーム指揮者に任せ、自律的に巡視・改修する態勢が、大量の復旧要員を集中投入する現場で効果を発揮した。工程が交錯するため、「送電再開時の安全管理を徹底させた」(郡山所長)。
 停電戸数は着実に減少。18日にはがけ崩れや家屋の損壊などのため進入できず復旧困難な箇所と、一の宮・高森地区(阿蘇市、高森町、南阿蘇村)を除いて復旧を完了した。

 ◇全3万3千戸
 一の宮・高森地区の停電は、同地区に供給している6万6千V送電線が周辺の大規模な土砂崩れなどで使用できなくなったことが原因。送電線の仮復旧にはかなり時間がかかると予想された。役場や避難所など重要施設では、他地区で配電線復旧までそうしたように、高圧発電機車によるスポット送電を行っていた。
 現場は当初、送電線の仮復旧までこの停電状態が続くのはやむを得ないと考えていた。「それでは一般のご家庭に迷惑を掛ける」。本震当日の16日、瓜生道明社長が指示。高圧発電機車を活用し全3万3千戸へ応急送電する方針が決まった。
 阪神・淡路大震災や東日本大震災でも例のない広域・大規模の応急送電。可能にしたのは、電力9社からの応援派遣だ。九州電力保有の高圧発電機車59台に、各社の応援が次々加わった。20日夜には148台が配電線に接続・稼働し、一の宮・高森地区一帯の停電は解消。総台数は21日には169台まで増え、ピーク時には161台が稼働した。
 送電線の仮復旧工事が終わり、送電を再開したのは27日午後10時。系統電源への切り替えを順次進め、28日午後9時36分、同地区の配電線から全ての高圧発電機車の切り離しを完了した。

 ◇マップに軌跡
 相次ぐ余震の中、車やテントに寝泊まりしながら、長期間の応急送電に尽力した電力各社の応援部隊に、地域の住民から感謝の声が多数寄せられた。瓜生社長は22日、現地に入り、各社の社員にお礼を伝えて回った。
 「感謝の気持ちと共に、応急送電作業の記録を渡したい」。小野利喜執行役員・配電本部長の発案で急きょ作成した資料が、帰途に就く各社の部隊に贈られた。担当した送電エリアを色分けし、多数の写真を掲載したマップ。安定供給を使命とする電力会社同士の連帯の軌跡が記された。
 復旧に当たった九州電力配電部門の社員は最大約1100人。委託工事会社からほぼ同数が従事した。熊本支社では本店・他支社からの応援を合わせ最大76人の「支援班」が、資材・燃料調達や食料・宿泊場所の手配などに奔走。時吉センター長は「一丸となって一日も早く電気を送ろうとした。経験を今後の大規模災害対策に生かしていきたい」と振り返る。
 最前線となった配電事業所は現在、家屋損壊に伴う供給廃止への対応、仮復旧した配電設備の本改修などに追われる。仮設住宅への供給も増えていく。「お客さまの安心・安全につなげる」(堀田真人・熊本東配電事業所設備保全グループ長)ための取り組みは今後も続く。

 マグニチュード7.3を記録した「平成28年熊本地震」。近年の九州では最大規模となる甚大な被害が発生した。電力小売り全面自由化直後の大規模災害だったが、そこで力を発揮したのは、やはり安定供給に対する電力マンたちの強い使命感だった。「連帯の復旧」の軌跡を追った。(特別取材班)

(電気新聞2016年6月14日付1面)