◆“新知見”の扱いが課題に
原子力規制委員会は、関西電力大飯発電所の地震動評価を巡り、基準地震動(Ss)の再計算を行うよう事務局に指示した。前委員長代理の島崎邦彦・東京大学名誉教授からの提言を受けた形だ。「過小評価になる」と指摘されたのとは別の予測式を使って早急に計算し直し、あらためて規制委で議論する。島崎氏の今回の提言は、学会などで定まっていない新知見を規制にどう取り入れるかについても重い課題を投げ掛けた。(稻本 登史彦)
16日に規制委を訪れ、田中俊一委員長、石渡明委員らと会談した島崎氏は、大飯発電所などで地震動評価の一部に用いられた「入倉・三宅式」について、地震規模が「過小評価」になる恐れを指摘した。
島崎氏によると、「入倉・三宅式」を用いると断層面が垂直の場合、地震規模が「非常に小さくなる」という。会談ではこのほかの予測式である「山中・島崎式」で地震規模が3.5倍、断層の長さを考慮する「武村式」で4倍になるとの試算も示した。
同様に「入倉・三宅式」を採用し、既にSsが決定している関電高浜発電所は「FO―A~FO―B、熊川断層との距離が遠いので影響は少ない」と指摘。まずは大飯に絞ってSsの再評価を実施するよう要請した。
提言を踏まえ、今後の対応方針を協議した20日の定例会合で、石渡委員は「できるだけ早く計算し、規制委に報告してもらいたい」と指示。作業は原子力規制庁技術基盤グループが担い、「短時間で終わらせたい」(規制庁)とする。結果は再度規制委に諮る。
一方で焦点となったのは"新知見"の扱いだ。規制委はこれまで、「学会などで評価が定まったもの」を審査ガイドや基準類に反映し、規制活動に用いることを基本的なスタンスとしてきた。しかし、今回の島崎氏の提言は「学会での発表はあったが、査読付きの論文にはなっていない」(規制庁)という。
規制委は大飯の地震動評価について、「断層の上端深さ、傾斜角など厳しく評価し、保守性をかなり持たせている」と強調する。その一方で再計算に踏み切った理由について、田中委員長は同日の会見で「島崎氏は2年間、大飯の責任者として全部やられてきた。先生からの指摘なので、とにかく計算してみてということだった。やや例外的に受け入れた」と説明した。
(電気新聞2016年6月22日付2面)