◆減価償却は託送で回収へ
小売規制料金の撤廃を見据えた廃炉に関わる会計制度についての方向性が固まった。原子力事業者が廃炉に関わる費用を引き当てて準備する「原子力発電施設解体引当金」は引当期間を短縮し、小売規制料金が撤廃された後も、原子力を保有する電力会社が一部を除いて確保していく。小売り全面自由化の下でも制度を確実に維持していくため、規制が残る託送料金制度を活用して引き当てていく検討も行われたもようだが、経済産業省は「廃止措置は費用確保も含め、原子炉の設置者の責任で完遂する」という原則で通した格好だ。
制度が改正された2013年以降、原子力事業者は運転開始から50年間、定額で解体費用を引き当てることになった。50年間の内訳は、運転期間の40年間と安全貯蔵期間の10年間。今後は実質的に利益が見込める運転期間の40年間に短縮して、全額を引き当てる仕組みにする。ただ、原子力規制委員会によって20年間の運転延長が認められた場合は、引当期間も60年間に延長することを認める。
一方、13年以降に廃炉した原子炉は、引当金の残額を安全貯蔵期間の10年間で分割して引き当てているところ。これが40年間へ短縮されると、未引き当て分を一括して費用認識する必要があり、各社の財務に悪影響を与えることになる。このため、この一括費用認識が必要な分に限り、分割して託送料金で計上することを認める。
現時点でこの対象となるのは関西電力美浜発電所1、2号機など5社・6基で、15年度末時点の対象額は計253億円。一方、同じ時点で10社・50基の引当金総見積額は約2兆9千億円で、このうち未引当金は約1兆2千億円の規模だ。小売規制料金が撤廃されるまで一定額は減少するものの、託送料金制度の活用に比べると自由料金などで確保していくことには不安が残る。
◇再検証が必要
原子力に対して厳しい世論が多数を占め、一部大手メディアは「廃炉費用を新電力に負担させるのか」との論陣を張る。原子力立地県の知事選やくすぶる解散風の中で、経産省が政治的な背景をおもんぱかった様相だが、不足額の大きさからみても一定期間の経過後、小売り全面自由化の中での廃炉費用の確保策についてあらためて検証を行う必要がある。
一方、廃炉を円滑に進めるために13年に創設した廃炉会計制度では、発電と廃炉は一体の事業と定義。原子炉格納容器など、廃止措置中も役割を果たす設備を「廃止措置資産」として減価償却費を計上し、小売規制料金への原価算入を認めた。15年には対象を同資産以外にも広げ、廃炉に伴って一括して発生する費用を10年間に分割して償却する仕組みに変更した。
経年原子力の廃炉判断を促すこの制度を維持するためには、小売規制料金が撤廃された後も確実に減価償却費を回収していく必要がある。この点については、規制が残る託送料金制度で回収する方向性が決まった。
◇新電力も受益
制度の在り方を検討した、19日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の財務会計ワーキンググループ(WG)の会合では、託送料金を活用することについて、需要家間の公平性などについて議論した。
事務局は、新電力に切り替えた需要家も過去に原子力の電気を活用していた点や、大半の新電力が常時バックアップ(BU)を受けていることなどを指摘。「実質的に全ての新電力が、原子力を含む電源から受益している」と説明した。
(電気新聞2016年10月28日付1面)