エネコミ

2016年12月配信

2016年 12月1日
電力システム改革“貫徹”へ市場、会計で道筋/原子力切り出しなど年内中間まとめ

 経済産業省は、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関連する費用増大が確実視されることを踏まえ、9月下旬から電力システム改革の進展と東電改革を絡めた検討を一体的に開始した。当初から年内に中間取りまとめを行う予定で、およそ2カ月間、各種重要テーマが急ピッチで検討されてきた。年末に向けて、議論はいよいよ大詰めを迎える。(浜 義人、長岡 誠)
 システム改革関連の議論で、様々なテーマがある中でも最重要視されているのは、原子力の卸電力市場への切り出しと福島第一の賠償費用を新電力を含む全ての需要家(沖縄を除く)で負担していく道筋を描くこと。いずれも12月までに大きな方向性はまとまった。
 総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)は「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」と、その下に「市場整備」と「財務会計」の2ワーキンググループ(WG)を設けた。
 原子力の市場への切り出しは、市場整備WGで検討。新電力がベースロード電源にアクセスすることが難しいため、電力会社が先渡し市場にベースロード電源を切り出し、新電力が活用できるようにする。切り出す量や最低価格の設定などは今後検討するが、電力会社と新電力に非対称規制を設ける方針は固まった。具体的には電力会社が市場からベースロード電源を調達することは認められなくなりそうだ。
 賠償費用は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(賠償廃炉機構)から支援を受ける事業者(東電ホールディングス)が納付する「特別負担金」に加え、全ての原子力事業者が賠償廃炉機構が定める額を毎年納付する「一般負担金」が充てられている。このため賠償費用が増大すると、一般負担金の納付額も増加する可能性がある。
 これに対し、経産省は一般負担金の「過去分」といった概念を持ち出した。福島第一事故以前にも賠償費用は準備されていなければならなかったが、制度がなかったために当時の需要家は支払いを免れていた。この分を今から、沖縄を除く全ての需要家から回収するという理屈だ。
 財務会計WGでは一部の委員から反対する意見が出たが、29日の会合でおおむね了承。託送料金で回収していく方向でまとまった。次回以降の会合で、過去分の規模感が示されるが、兆円単位に上ることが見込まれる。
 電力業界には、ベースロード電源の切り出しのみが決まり、一般負担金の過去分の託送回収が先送りされることを危惧する声が強かったが、この「最悪のシナリオ」(電力会社関係者)は避けられる見通しとなった。
 このほか、様々なテーマが検討されているが、いずれも大筋の方向性は見えてきた格好。詳細な制度設計は、年明け以降に始まる見通しだ。
 一方、電力・ガス取引監視等委員会も、電力市場の事業環境整備について検討を進めている。制度設計専門会合では、卸電力取引の活性化が主な論点になっている。
 活性化の目玉施策といえるのが、電力各社が供給余力を拠出するだけでなく、自社需要に充てる供給力も市場を通して売買する「グロス・ビディング」の導入。電力各社は30日の会合で、導入時期や入札量を提示した。
 託送制度の抜本的な見直しも進む。発電事業者にも託送料金を課金することなどが柱で、今年度中に基本方針を取りまとめる予定。2017年度に詳細な制度設計を行い、18~19年度にかけてシステム改修といった準備作業を進める。実際に託送料金体系を変更するのは20年度を見込んでいる。

◆成果うかがえぬ東電委員会/数字や憶測、独り歩きも

 経済界の重鎮をそろえ、鳴り物入りで10月に始まった経済産業省の「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)」。議事は非公開で内部のやりとりを知ることはできないが、事後ブリーフィングから判断する限り、再編・統合というキーワードを刷り込む以上の目立った成果は出ていない。
 東電委員会発足の経緯は福島第一原子力発電所の廃炉費用上振れが懸念される中、東電ホールディングス(HD)の収益力を高め、福島への責任を全うさせる経営改革の方向を話し合うため。しかし10月の初会合以降、議論の前提を揺るがす出来事が相次いだ。
 一つは10月16日の新潟県知事選挙。東電HDの経営再建策の柱であり続けた、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に慎重だった米山隆一氏が新知事に選出されたことで「原子力ありき」の改革プランを描くのが極めて難しくなった。
 もう一つは再編に対する他社の反発だ。事務局が10月25日の第2回会合で、将来の再編を見越した原子力事業分社案を明記した資料を公開。事後に「東電はそのような意思を持っている」とミスリードする説明をしたことで提携先を巡る観測記事が続出。他電力会社が会見などで、東電との提携の可能性を否定する事態に発展した。
 第2回会合ではこれまで不明だった福島第一の廃炉費用が現在の年数百億円から、数千億円に膨らむ可能性も提示されたが、具体的な金額や算定根拠は現時点で示されていない。一方で事務局が廃炉費用の試算値を約8兆円と説明していた情報が漏れるなど、報道などで数字が独り歩きする状況を招いている。
 10月末には事後に丁寧なブリーフィングを行うとしながら、メディアに開催の事実を明らかにしない非公式会合を開いていた問題が表面化。事務局の情報公開姿勢に疑問符が付く一幕もあった。
 第2回で行った東電フュエル&パワー(F&P)と中部電力の合弁会社JERAへのヒアリングは数少ない成果の一つといえそうだ。JERAは同委が意図する「再編」の旗印。しかし今後の経営を巡る議論の中で事業収益を福島に還元するか、内部留保に回すかという論点が浮上した。
 同委は現在、年末の提言案策定に向けて、送配電、原子力の事業分社や他社との経営統合の必要性を議論している。しかし両事業を持ち株会社から切り離す場合、福島第一の廃炉費用拡大などのリスクからどこまで遮断するかという線引きは容易ではなさそうだ。
 福島への責任から切り離せば提携先を探すハードルは下がるが、収益を還元できなければ東電HDによる福島への責任貫徹はおぼつかない。「再編のジレンマ」を解消する妙手を見いだせないまま、会議は終盤戦に向かいつつある。

(電気新聞2016年12月1日付1面)