◆熊本地震、復旧に一体で対応
九州電力は今年、経営基盤の強化へ着実に歩を進めた。
2015年度連結決算は5年ぶりに黒字回復(経常利益909億円)し、賞与支給と少額配当が可能になった。燃料価格の下落や、15年8月以降に再稼働した川内原子力発電所1、2号機の安定運転などが寄与。16年度も経営効率化を徹底し、2年連続で黒字を確保する見通しだ。
経営正常化に不可欠な玄海原子力発電所3、4号機は、11月に設置変更許可の審査書案がまとまった。工事計画認可、使用前検査、地元同意などが順調に進めば、17年度の早い時期の再稼働が視野に入る。
◇顔の見える営業
4月からの電力小売り全面自由化では、10月末時点で約11万件、約1.5%の低圧顧客を奪われた。新料金プランや生活支援の新サービス「九電あんしんサポート」に加え、商業施設やイベント会場で「1日営業店」を頻繁に開くなど“顔の見える営業”を展開し、防戦に努めた。10月以降は6年ぶりにオール電化キャンペーンを再開、テレビCMも放映し、攻勢に転じている。
11月にはガス小売り事業の登録を申請。17年4月から福岡・北九州エリアで家庭向けに販売する。オール電化提案を軸としつつガスを望む声にも応え、幅広い顧客を取り込む。グループ会社の九電みらいエナジーが4月から始めた関東での低圧小売りは、10月21日時点で約900件と伸び悩んでいる。
直接的な営業強化策の一方で、九州地域の発展と地域社会からの信頼を重視する企業ブランドの浸透を図った。5月、環境活動と次世代育成支援活動を行う「九電みらい財団」を設立。「くじゅう坊ガツル湿原」(大分県)で長年取り組む保全活動を取り上げたCMも制作した。
電源面では、新大分発電所3号系列第4軸(LNGコンバインドサイクル、暫定出力45万9400キロワット)が6月に営業運転を開始。04年6月から工事を中断していた松浦発電所2号機(石炭、100万キロワット)の建設工事を1月に再開し、19年12月の営業運転開始を目指している。
原子力は2つの難題に直面した。
川内原子力の緊急時対策所(緊対所)を設置変更許可時の免震構造から耐震構造へ変更したことが「再稼働を優先した後出しじゃんけん」と批判され、年明け早々から対応に追われた。原子力規制委員会に対し安全面・技術面の理由を丁寧に説明し、11月に了承された。
◇特別点検を実施
7月には鹿児島県知事選挙で、「川内原子力を停止し、熊本地震の影響を再点検すべき」と訴えた三反園訓氏が当選。8月と9月の2度にわたり、即時停止を要請された。九州電力はこれを拒否し、定期検査に合わせた「特別点検」実施や避難支援の強化を回答。川内1号機は予定通り10月から定検に入り、12月11日に発電・送電を再開した。三反園知事も事実上容認し、事態は収束に向かっている。
4月の熊本地震では広範囲に送配電設備が損壊し、最大約47万件の停電が発生。グループ・協力会社一体での対応に加え、北海道から沖縄まで9電力会社から要員・資機材の大規模な応援も得て、早期復旧にこぎ着けた。電気事業関係者の安定供給への強い使命感があらためて浮き彫りになった。(一場 次夫)
(電気新聞2016年12月13日付2面)