◆安全対策、大幅に強化
九州電力の玄海原子力発電所3、4号機(PWR、各118万キロワット)が2017年度の再稼働に向けて大きく前進した。原子力規制委員会は、両基が新規制基準に適合したとする「審査書」案を11月9日に取りまとめており、近く「審査書」を確定し原子炉設置変更許可を交付する。その後は工事計画認可と保安規定変更認可、使用前検査、地元同意などの手続きへ進むことになる。大幅に強化された両基の、安全対策のポイントについて紹介する。
◆審査開始から3年4ヵ月/規制委が近く審査書確定
九州電力は2013年7月12日、玄海原子力発電所3、4号機の新規制基準適合性審査を申請。約3年4カ月の審査を経て、事実上の合格を意味する審査書案が提示されるに至った。先に合格し15年に再稼働を果たした川内原子力発電所1、2号機に続き、玄海3、4号機は17年度には再稼働できる見通しとなった。
新規制基準は、11年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえて策定された。要求内容は、「地震・津波などの共通要因による安全機能の一斉喪失の防止(重大事故の発生防止)」と、「万一、重大事故が発生しても対処できる設備・手順の整備」に大別される。
九州電力は玄海3、4号機について、深層防護の考え方の下、異常の発生と事故への進展を防止するとともに、事故に至った場合の影響を緩和し、放射性物質が人や周辺環境に影響を及ぼさないようにする対策を講じる。その内容が、新規制基準の要求を満たした。
◆設計基準の強化
◇異常発生・事故進展防止へ/地震・津波など幅広く考慮
異常の発生と事故への進展を防止する観点からは、地震、津波、火山、竜巻などを考慮している。
基準地震動(Ss)は当初、発電所周辺の活断層により想定される3波(最大加速度540ガル)を設定。審査の過程で、震源と活断層の関連付けが難しい過去の地震動として北海道留萌支庁南部地震、鳥取県西部地震を考慮した2波を追加し、最大加速度は620ガルに引き上げられた。それでも発電所の重要施設が機能喪失しない設計とすることとした。
基準津波は、上昇側で対馬南西沖断層群と宇久島北西沖断層群の連動を考慮。取水ピット前面付近の最大津波高さを、潮位のばらつきなどを考慮して海抜6メートルとした。原子炉建屋などがある敷地の海抜は11メートルと十分に高いことから、安全性に影響はない。
下降側(引き波)は西山断層帯を考慮し、取水ピットでの最大低下水位を、潮位のばらつきなどを考慮して海抜マイナス4.5メートルとした。設備の冷却に必要な海水ポンプの取水性能に影響はない。
火山の関係では、発電所から半径160キロメートルの範囲にある49火山と範囲外に4つ存在する九州のカルデラを対象に、将来の活動可能性および火山事象(火砕流・溶岩流など)の影響を評価した。安全側に約5万年前の「九重第1噴火」による火山灰(厚さ10センチメートル)を想定したとしても、設計・運転による対応が可能だとした。
カルデラは、発電所運用期間中に破局的噴火が起きる可能性は極めて低いが、万一の備えとして火山活動のモニタリングを実施し変化がないことを定期的に確認する。
そのほか、竜巻、火災、内部溢水(いっすい)に対する備えを実施している。
最大風速毎秒100メートル(国内の過去最大は毎秒92メートル)の竜巻が発生することを想定。海水ポンプエリアには安全上重要な設備に飛来物が衝突するのを防ぐ竜巻防護ネットを設置した。また、屋外の資機材などが飛来物とならないよう、固縛を実施するとともに、可搬型ポンプや発電機車などを収納する保管庫を設置する。
外部の火災が発電所に延焼するのを防ぐため、幅35メートルの防火帯を設置。内部溢水に対しては、安全上重要な設備の設置エリアに水密扉(計20カ所)を設置したほか、配管からの蒸気漏れを検知して自動的に漏えい箇所への蒸気の流れを遮断する設備を設けた。
◆重大事故対策
◇代替緊急時対策所を設置/緊急時想定訓練にも注力
重大事故への対処としては、炉心損傷防止および格納容器の破損防止のため、常設のポンプに加え、可搬型のポンプなどを配備した。
常設電動注入ポンプは、つながるラインを切り替えることにより、炉心損傷防止と格納容器破損防止(格納容器スプレー)を兼用。炉心への注水用に可搬型ディーゼル注入ポンプも導入した。
格納容器内での水素爆発防止対策も講じた。静的触媒式水素再結合装置、電気式水素燃焼装置を設置。炉心損傷が起き水素が発生しても水素濃度を低減できるようにした。
格納容器が破損した場合、発電所外への放射性物質の拡散を抑制するため、放水砲から高圧の水を破損箇所に向けて注ぐ。移動式大容量ポンプ車で海水をくみ上げて使用。放水砲は地上高約50メートル(海抜約60メートル)の格納容器最上部まで届かせる能力がある。また、海中にはシルトフェンスを張り、放射性物質を含む汚濁水を沈殿させ、拡散を抑える。
一方、全般的な安全性・信頼性向上対策として、電源を大幅に強化した。
非常用ディーゼル発電機を、従来の約2倍に当たる7日間連続運転するのに必要な燃料を確保するため、燃料油貯蔵タンクを増設。非常用ディーゼル発電機が使用できない場合に備え、大容量空冷式発電機(常設代替電源)、発電機車(可搬型代替電源)を配備した。発電機車はリスクを低減する観点から、複数台を分散して配置している。
また、直流電源として、既設の蓄電池に加え、重大事故等対処用蓄電池を増設、可搬型代替電源(直流)を設置した。
さらに、重大事故発生時の対処拠点として、海抜約21メートルの地点に代替緊急時対策所を設置した。指揮命令、通信連絡、情報把握に必要な機能を備え、要員100人が7日間滞在できる。厚さ60~120センチメートルの壁で放射線を遮蔽するほか、プルーム(放射性物質の雲)通過時に対策所内を加圧するための空気ボンベ500本を設置している。
今後、耐震構造の緊急時対策棟を海抜約25メートル地点に建設し、棟内に緊急時対策所を配置する。地上2階、地下2階建ての構造。緊急時対策所機能は地上1階、休憩室や医務室など支援機能は地下部分に置く。工事計画認可を受けて着工後、2年程度で完成する予定だ。
新規制基準適合性審査を申請した段階では免震構造を採用する計画だったが、より安全性を向上させる観点から耐震構造に変更し、了承された。
(1)基準に適合した原子力施設に採用する免震装置を新たに開発、実証するのに必要な期間を見通せず建設のめどが立たない(2)十分な実績のある耐震構造であれば、地震に対して免震構造と同等の安全性が確保でき、運用開始のさらなる遅延を回避できる――などが計画変更の理由だ。
緊急時対策要員については常時52人を確保。勤務時間外や休日・夜間に重大事故等が発生した場合でも、拡充した安全設備を駆使して的確に対応できるようにしている。
緊急時を想定した訓練にも力を注いでいる。総合的な訓練を年2回行うほか、可搬型ディーゼル注入ポンプや移動式大容量ポンプ車を設置しての冷却水供給訓練、高圧発電機車や中容量発電機車から電源ケーブルを接続する電源供給訓練、放水砲による放射性物質拡散抑制訓練などを適宜実施している。
11年3月の福島第一事故以降、冷却水供給訓練は314回、電源供給訓練は382回、重大事故時等の運転操作訓練は121回(10月末現在)に上っている。
(電気新聞2016年12月20日付9面)