◆日本一のエネサービス目指す
川内原子力発電所の再稼働などにより、2016年度は2年連続で黒字を確保する見通しの九州電力。瓜生道明社長は17年の抱負として、経営正常化に不可欠な玄海原子力発電所3、4号機の早期再稼働を挙げる一方、域外供給や再生可能エネルギー事業など「成長分野に力を入れていく必要がある」と語る。電力小売り全面自由化で低圧の離脱が増えている状況には、オール電化営業で歯止めをかける考えを強調。「日本一のエネルギーサービス」を提供する企業グループを目指し、まずは社員一人一人が自分の仕事で「だれにも引けを取らないプロ」になってほしいと呼び掛ける。
◆回顧と17年の抱負/玄海3、4号 再稼働へ全力
――2016年を振り返ると、どのような年だったか。
「いろいろなことがあり、対応に追われた。年明け早々には川内原子力発電所の緊急時対策所について、設置変更許可時の免震構造から再稼働後に耐震構造に変更したことが批判を招いた。だいぶ原子力規制委員会で整理して頂き収まったと思ったら、4月に熊本地震が発生。8月には鹿児島県知事から川内原子力発電所の停止等を要請され、11月には福岡市・博多駅前で道路陥没事故とそれに伴う停電が発生した。いろんな事象が起きて、気が抜けない一年だった」
「それでも、免震・耐震については、安全性等の観点から検討を重ねた結果の変更であるという当社の主張を規制委員会に理解して頂いた。熊本地震に伴う災害復旧対応も、全国の電力会社から協力を得て、手前みそになるが、相当に早く復旧できたと思う。いろいろな場面で、私たち九州電力グループ、そして全電力会社の皆さんの底力を感じた一年であった」
――17年の抱負は。
「経営正常化に不可欠な玄海原子力発電所3、4号機の再稼働を少しでも早い時期に実現したい。設置変更許可の後、工事計画認可(工認)、保安規定の変更認可、使用前検査、さらに地元同意のステップと重大な局面を迎える。原子力や土木部門だけでなく全社一丸となって一日も早い再稼働を目指す。川内原子力では設置変更許可から工認まで半年かかった。玄海では、川内はじめ先行プラントのひな形もあるので、工認までの期間を少しでも縮めてもらえればと思っている。地元同意に向けては、佐賀、長崎、福岡3県の関係する地域の皆さんとフェース・ツー・フェースのコミュニケーションを行っていく」
「4月には送配電カンパニーやエネルギーサービス事業統括本部等の導入など、組織・業務運営体制の大幅な見直しを実施する予定だが、それぞれの組織がしっかり機能するかは、経営層を含めた社員一人一人の意識次第。その点をしっかり認識し、変革・競争意識を高めていくことが大事と考える」
「域外供給(関東での電力小売り)、17年4月に家庭用の小売りを始めるガス事業、再生可能エネルギー事業、海外事業など成長分野に力を入れていく必要がある。しっかり成長していく姿をつくっていかないといけない。そのためには、イノベーション、ICTなど、新たな分野への取り組みが重要な課題であると考えており、現在、部門横断で検討している。失敗を恐れずに、どんどん取り組んでほしい」
――16年度通期の連結業績見通しについて。
「16年10月の中間決算発表時に公表したが、売上高は前年度比1.4%減の1兆8100億円、経常利益は同17.5%減の750億円、純利益は同18.4%減の600億円となる見通しだ。グループ一体となって費用削減に取り組んでいるが、燃料費調整の期ずれによる一時的な収支改善効果が大幅に減少することや、熊本地震に伴う特別損失の計上などがマイナス要因。いずれにしても、2年連続の黒字は絶対達成すべき目標であり、公表した水準をしっかりキープしたい。期末配当は未定としているが、自己資本レベルが中長期的にどうなるかも見ながら、最大限努力する」
◆競争時代を勝ち抜く/顔見える全電化営業展開
――電力小売りの全面自由化について。現状の評価と今後の対応方針は。
「低圧の離脱(スイッチング)約13万件、比率1.7%(16年11月末時点)が多いのか少ないのかは判断に迷うところ。ただ、継続的に離脱が発生しているのは間違いない。営業部門の社員は『1日営業店』を頻繁に開いたり、16年10月から6年ぶりに再開したオール電化キャンペーンでIHクッキングヒーターなどの機器をPRするイベントを行ったりと、“顔の見える営業”をしっかりやってくれている。スイッチングが拡大しないよう、今後も九州各地の50カ所の営業所ネットワークを生かしていく」
「原子力が再稼働し、オール電化営業を再開できた。オール電化は、お湯を作るのに高効率のヒートポンプを使うため、省エネルギータイプのシステム。IHは掃除が簡単で、火を使わないため、高齢者世帯や子どものいる世帯で安心して使って頂ける。オール電化をお勧めして、それでもガスを希望するお客さまには電気に加えてガスを提案する。お客さまにエネルギーを選択して頂ける仕組みにしたい」
「IHなど、目に見えるモノを通じての営業はやりやすい。オール電化のテレビCMや街頭、映画館、ラジオ放送などでのPR活動も実施する。最後はフェース・ツー・フェースで契約してもらう必要があるが、そこに至るまでの雰囲気づくりはしないといけない。さらに、環境活動と次世代育成支援活動を担う『九電みらい財団』を16年に設立したように、当社が『ずっと先まで、明るくしたい。』という思いで地域と関わり、地域の持続的発展に寄与していることを認知して頂くことも重要だ。『それならやっぱり九電から電気を買おう』と思って頂けるようになればありがたい」
――原子力発電所の使用済み燃料の貯蔵に対する考え方は。
「玄海原子力の使用済み燃料プールは、再処理工場(青森県六ケ所村)への搬出ができない場合、再稼働後4~5サイクルの運転で満杯になる。プールのラックの間隔を縮小して貯蔵余裕を確保するリラッキングを3号機で行う設置変更許可を10年に申請したが、東日本大震災以降、手続きが中断した状態。原子力規制委員会の田中俊一委員長は乾式保管を検討すべきという考えを示している。修正して出し直すことも含め、検討する。そうなると地元対応も必要になる」
「田中委員長は、乾式保管の規制を緩和するとも言っている。一定期間プールで冷却した燃料を暫時、空冷式の乾式保管へ移し、プール方式と併用することでさらなる安全性向上を図れると考えている。現在、敷地内外での乾式保管について技術的な検討を進めている」
――特定重大事故等対処施設について。また、川内の進捗状況と玄海の申請の見通しは。
「川内は規制委員会による審査が大詰めを迎えている。期限である20年3月までに設置できるよう、審査対応と当該施設の工認後に着手する工事にしっかり取り組んでいく。玄海は本体施設の新規制基準への適合性に係る工認を受けたら、(本体施設の工認から5年後という設置期限に向けて)時計の針が進み始めるので、速やかに検討を始めたい」
◆社員にメッセージ/グループ一体で成長描く
――今後の電源構成の見通しは。
「東日本大震災以降、需給逼迫時に老朽火力が貢献してくれた。ただ、今後、省エネの進展や人口減少などで需要はだんだん減っていくと考えられることから、これら老朽火力についてはスリム化を図っていく。具体的には、17年度に苅田発電所新2号(石油、37万5千キロワット)の廃止を予定する。これからも順次、老朽火力の休廃止を検討していくことにしている」
「今後の電源構成については、電力システム改革に伴う競争環境並びに、地球温暖化対策、国のエネルギー政策などを総合的に勘案し、柔軟に対応していく」
――域外電源開発の現状と今後の方針について。
「30年時点の域外電源開発目標200万キロワットの達成に向け、千葉県袖ケ浦市で石炭火力発電所(総出力200万キロワット)を出光興産、東京ガスと共同で開発する検討を行っており、順調に進んでいる。先頃、環境影響評価の方法書が了承され、開発地点周辺の環境調査を始めた。今後、設備の検討、メーカーの選定などを行っていく。発電した電気の販売を考えれば、コストをいかに下げるかが大事になる」
「16年5月、北海道壮瞥町の地熱資源調査に関する協定を同町、北海道電力と締結した。徐々に前へ進んでいる。資源を有効に活用できるので、地域にとっても良い話だと思う」
――15年に策定した中期経営方針で、「日本一のエネルギーサービス」を提供する企業グループになるという目標を掲げている。実現のために必要なことは。
「やはり、グループ会社と一体となって成長していかないと難しい。グループ会社はいろいろなエネルギー、サービスを持っている。『ずっと先まで、明るくしたい。』という『九州電力の思い』をグループ会社に共有してもらう。その上で、グループ一体で、『売りたいサービス、商品』でなく、『お客さまが欲しがる商品、サービス』をしっかりつくって外販する。そういう形にしていかなければならない」
「グループ一体という概念が今はまだ少し弱い。グループ会社の方にも親会社と取引していればいいという意識が残っている。それでは日本一のエネルギーサービスを提供できない。まずは、九州地域全体をお客さまとして商売をする必要がある」
「震災後5年間、相当厳しい時代があったがゆえに、特に若い人を中心に前向き、アグレッシブになってきている。役員や管理職の皆さんにも、さらなる意識の切り替えを求めたい。60年以上の伝統を持つ会社が、変わっていくためには大きなエネルギーが必要だ。だからこそ、上に立つ皆さんが率先垂範して意識を変えていって頂きたい」
――最後に、社員へのメッセージを。
「日本一になるために、それぞれが自分の持てる力を惜しみなく出して頂きたい。そのためのサポートは、我々経営層が全て行う」
「よく『日本一になるにはどうすればいいか』と聞かれるが、まずは、『自分の仕事はだれにも引けを取らない』というプロになってもらいたい。それもできずに日本一になろうというのはおこがましい話。その次に、皆と手を取り合って、一層いいものを作り上げていくにはどうすればよいか考えていくことが大事になると思う」
(電気新聞2017年1月13日付7面)