エネコミ

2017年4月配信

2017年 4月10日
[サイト2017]高浜3、4仮処分

◆論点共通も高裁で“逆転”/立証責任の所在判断に差

 関西電力高浜発電所3、4号機を巡り、大阪高等裁判所(山下郁夫裁判長)が2基の運転を認める決定を出した。関電が同高裁に申し立てていた抗告審で3月28日、運転禁止を命じた大津地方裁判所(山本善彦裁判長)の仮処分決定を取り消す決定を下した。大阪高裁と大津地裁で争われたのは基準地震動(Ss)の算出方法など、ほぼ同じ論点だった。なぜ全く異なる決定が下ったのか。裁判所が何を審査し、誰に、どのような立証を求めるかの「判断枠組み」が大きく違っていたことに、“逆転決定”の理由があるとみていい。(編集委員・塚原 晶大)

 3月28日午後2時頃、大阪市北区の大阪高裁前には訴えを起こした住民側が集まり、決定文交付を待ち構えた。そして午後3時すぎ。報道陣の前に弁護団が歩み寄り、垂れ幕を広げた。「不当決定」――。関電側の逆転勝訴を表すものだ。弁護団長の井戸謙一弁護士は「判断枠組みは『伊方判決』から一歩も抜け出ていない。福島(第一)事故を踏まえて裁判所は変わらないといけないのに、それが反映されていない。大変残念な結果だ」と高裁決定を批判した。
 井戸弁護士が言う『伊方判決』とは、四国電力伊方発電所の原子炉設置許可取り消しを巡る行政訴訟で、最高裁が1992年に出した判例のことだ。原子力のように高度な科学技術に関する案件は、行政庁の専門的な裁量を尊重するという司法の立場を示したもので、長らく原子力の運転差し止め訴訟の“ひな型”とされてきた。
 しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故後、司法の立ち位置は『伊方判決』から抜け出し、裁判官が自ら技術的な内容に踏み込み、独自の解釈を示した上で判決・決定を下すケースが増えだした。典型例が、2014年5月の関電大飯発電所3、4号機差し止め判決(福井地裁、樋口英明裁判長)、15年4月の高浜3、4号機差し止め仮処分(同)だ。樋口裁判長は原子力規制委員会の新規制基準を緩やかに過ぎると断じ、Ss算定の根拠となった想定地震規模などについても「有史以来最大のものではない」などと、「ゼロリスク」でなければ運転は許容できないという論理を組み立てた。
 大阪高裁が取り消した大津地裁の仮処分決定は、技術論に踏み込まず、立証責任の所在を関電に転嫁したのが最大の特徴だった。原審・異議審で山本裁判長が組み立てた判断枠組みは、安全性について関電が十分な説明を尽くさない限り、運転を認められないというものだった。だが、仮処分を下す上での要件は、民事保全法で「差し迫った危険性が具体的に存在していることが認められること」と明確に記されている。「十分な疎明(そめい)が尽くされていない」という理由だけで運転停止仮処分命令を下したことには法曹関係者からも疑問の声が上がっていた。
 関電はこれを不服として大阪高裁に抗告。山下裁判長が組み立てた判断枠組みは、(1)原則的に立証責任は「人格権侵害」を訴え出た側が負う(2)ただ、説明に必要な資料や情報は関電が保有しているので、関電による説明が不十分ならば「人格権侵害」が存在する(3)関電が十分な説明を尽くしていると判断できるのに、なおも危険性を主張するなら、その立証責任は住民側に存在する――というアプローチだ。
 福島第一事故後の運転差し止め訴訟で高裁レベルの決定が出たのは2例目。いずれも差し止めが必要な危険性はなく、住民側の申し立てに理由はないと退けている。地裁レベルで判断が割れ、司法の安定性に疑問符がつく中、2件の上級審決定が今後の訴訟にどのような影響を与えるのか。高い関心が集まっている。(隔週で掲載します)

(電気新聞2017年4月10日付36面)