政府は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に特性のある地域を日本地図に反映させる「科学的特性マップ」提示に向けた条件を固めた。検討を進めてきた経済産業省の2つのワーキンググループ(WG)の議論が14日までに大筋で終了。今後、国はマップづくりの本格作業に入るが、当初「2016年内」を目標としていた提示の見通しはいまだ立たないまま。公表までの道のりにはなお曲折も予想される。(稻本 登史彦)
◇言葉遣いを修正
「いよいよ、準備も大詰めを迎えたという印象だ」――。14日開かれた総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)の席上、出席した委員からはおおむね好意的な意見が並んだ。懸案だった「言葉遣い」の問題が払拭されたことへの評価だ。
同WGではこれまで、文献調査の前段階として火山や活断層の影響が少なく、地層処分に特性のある地域を3色に色分けした地図を作製し、国民に提示することを目標に掲げてきた。最も特性のある地域が「科学的有望地」だ。
だが、検討も大詰めに差し掛かった昨年11月。科学的見地から議論を進めていた地層処分技術WGの会合で、委員からマップの要件・基準の意図を分かりやすく表現することへの必要性について意見が相次いだ。このため16年内の公表は先延ばしを余儀なくされ、両WGで議論を継続することになった。
技術WGでは、2度のパブリックコメント(意見募集)と原子力委員会放射性廃棄物専門部会の報告を踏まえ、17日に最終的な取りまとめ結果を公表。意見募集や全国で実施した対話活動で特に関心の高かった地震や津波、地下水といった自然事象に関する説明を充実させたほか、要件・基準の分類については「回避すべき範囲」を「好ましくない範囲」などに見直した。
さらに、マップの提示に向けては、個別地点の適性を直ちに保証するものではないことを明確化にする狙いから、「適性の低い」「適性のある」「より適性の高い(科学的有望地)」の従来の3区分を「好ましくない特性があると推定される」「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」「輸送面でも好ましい」に改めた。
火山や活断層の近傍のほか、隆起・浸食が大きい範囲といった要件に一つでも当てはまる場合は地下深部の長期安定性から「好ましくない」に分類される。将来掘削される恐れがある油田・ガス田も同様だ。沿岸海底下や島しょ部を含め、海岸からの距離が短く、輸送が容易なエリアが「輸送面でも好ましい」に分類される。
地図自体の名称も「科学的特性マップ」と呼称することを決定し、経産省・資源エネルギー庁が今後、策定作業を本格化させる。提示時期については「全くの未定」(エネ庁幹部)としているが、提示前には原子力発電環境整備機構(NUMO)とともに、全国規模での説明会を順次実施する考えだ。
◇判断民意に委ね
政府は15年5月に最終処分の基本方針を改定。特性のある地域を示し、複数の自治体に調査を申し入れる形に見直した。
それまではNUMOが自治体からの調査受け入れを待つ公募方式だったが、応募したのは高知県東洋町のみ。このため、国主導へと大きく舵を切った格好だ。同年12月の最終処分関係閣僚会議で政府は16年内の提示を目指すとしたものの、公表には至っていない。
「科学的知見」に基づくはずのものが、いたずらに延期されれば、“政治判断”などと誤解を招く恐れもある。国民的関心の醸成という本来の意義に立ち返るなら、早期に提示した上で、判断を民意に委ねることも理解醸成の近道になるだろう。
(電気新聞2017年4月18日付2面)