エネコミ

2017年5月配信

2017年 5月1日
[特集]電力会社・創立記念日

◆電気事業体制、大きな変革の時

 2016年4月の電力小売り全面自由化スタートから1年が経過した。新たに開放された家庭用などの低圧分野では昨年5月以降、月20万件のペースでスイッチング(供給者変更)が増加。卸電力取引市場も急速に活性化し始め、既に自由化されていた特別高圧や高圧の分野でも、新電力のシェアが伸びてきた。一方で、この4月から都市ガス小売りも全面自由化が始まり、「電気+ガス」のセット割引による供給が人気を集めている。総合エネルギー供給事業者への転換、2020年の送配電部門の分離に向けた体制の変革と、電気事業体制はさらに大きく動きだそうとしている。

◆電力小売り全面自由化1年

 ◇今後は淘汰の時代に/異業種参入で選択肢拡大
 電力小売り全面自由化が始まり、4月で1年が経過した。全面自由化後の新電力のシェアをみると、欧州での自由化や、日本の特別高圧・高圧の自由化の際と比べても「まずは順調なスタートを切った」(経済産業省幹部)といえる。ただ、今後はガスの小売り全面自由化を受け、競争力のない事業者の淘汰(とうた)が進む可能性がある。一方、電力システム改革の最終段階となる2020年4月の発送電分離(送配電部門の法的分離)に向け、詳細な制度設計も始まった。
 新電力のシェアに関し、英国では全面自由化から1年後に12%、8年後には5割程度まで上昇した。フランスでは1年後に1%で、8年後でも10%にとどまっている。日本は1月時点で、販売電力量全体に占める新電力のシェアは低圧電灯が3.7%、低圧電力が1.9%となっており、「英国とフランスの間くらい」(同)のスタートとなっている。
 過去の特高・高圧自由化の際は、新電力のシェアが特高は自由化から1年後でも1%に満たず、高圧も0.4%にとどまった。低圧部門の新電力のシェアは、特高・高圧よりも大きく上回るペースで上昇している。
 小売電気事業者数も増加を続けている。4月20日時点の登録数は392者で、経産省が審査中の事業者も含めると、450者を超える。これまで電力業界になじみのなかった旅行業界といった異業種や、地方自治体などからの参入が進み、都市部を中心に消費者の選択肢が広がっている。
 ただ、今年4月からのガス全面自由化により、電気とガスをセットで割安に販売する形態に関心が高まっている。割引原資が電気とガスの2品目あるため、いずれかしか販売できない事業者にとって販売地域によっては厳しい事業環境になることも予想される。このため「約400者いる小売電気事業者の中で、今後は淘汰が進むのでは」とみる有識者もいる。
 一方、制度面では、新電力がベースロード電源を調達しやすいように、ベースロード電源市場を創設する検討が進んでいる。このほか、容量市場の設置や連系線利用ルールの見直しなども、並行して詳細設計が議論されている。この検討は総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会で行われている。
 加えて、電力システム改革の最終段階となる発送電分離に向け、電力・ガス取引監視等委員会は3月末、行為規制などの検討に着手した。取締役の兼職については、例外として兼職が認められる範囲について議論する。グループ間の利益移転では、適正な競争関係を阻害する条件の判断基準などが焦点になりそうだ。
 監視委の制度設計専門会合で検討し、17年12月には詳細を決め、18年4月に経産省令などを制定する予定。これを受けて旧一般電気事業者は18年度から2年間かけて、人事を含めた組織体制の移行準備や必要なシステム構築に取り組む。

◆卸電力市場の動向

 ◇スポット約定量拡大/グロス・ビディングも本格化
 電力小売り全面自由化から1年で、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場の約定量が前年度に比べて1.5倍に増えた。
 新規参入者の急増を受けて、買いは強まる一方。約定しやすい価格の売り札が増加したこととの相乗効果で、年度後半にかけて増加傾向を示した。
 2016年度の約定量は前年度比49.1%増の229億6189万9500キロワット時で、05年4月の市場開設以来初めて200億キロワット時の大台を突破した。需要電力量に占める約定量の割合は昨年12月時点で3.3%と、前年同月の1.8%から大幅に上昇した。
 買い札量は同64.2%増の608億6673万3千キロワット時。スポット取引への依存度が高い新電力の急増に加え、電源の差し替えなどを目的とする大手電力の積極的な買いも背景にある。
 売り札量は同8.9%増の968億6229万3500キロワット時。上期は同2.2%減だったが、昨年10月頃から潮目が変わり、下期は同21.4%増に転じた。大手電力の行動が変わったためだ。
 約定しやすい価格の売り札が特に東北・東京エリアで増えたもようで、上期平均で7割あった東西市場分断率は4割に低下した。北海道エリアでも12月頃から変化がみられ、昨年6月に8円あったシステムプライスとの値差は2円に縮まった。
 市場関係者の見方によると、売り札が増えた要因は3つ。1つ目は需要家のスイッチングだ。大手電力の需要が減少した分、限界費用の安い余剰電源が市場に拠出されている可能性がある。
 2つ目は市場監視の強化だ。電源の限界費用より高い売り入札価格を設定していた東京電力エナジーパートナー(EP)は昨年11月、電力・ガス取引監視等委員会から業務改善勧告を受けた。北海道電力も2月、JEPXの市場取引監視委員会から「(売り入札に)消極的な姿勢が目立つ」と指摘された。
 一方、大手電力の一部は実質的に「グロス・ビディング」を始めている。これが3つ目の要因だ。社内取引の一部をスポット取引に移行する試みで、市場の流動性や取引の透明性の向上が期待されている。既に16年度から、運転制約のある電源も売り入札に出し、供給力を積み増したい時間帯に市場から買い戻すといった取り組みが行われていたもようだ。
 17年度はグロス・ビディングが本格化するほか、一般送配電事業者が買い取ったFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)電源も市場に拠出される。
 スポット取引のシェアは20%程度まで上昇する可能性もある。昨年4月に開設された1時間前市場は、段階的に活用が進んだ。約定量は16億6049万6850キロワット時、約定件数は89万5246件だった。

◆ガス全面自由化が開始

 ◇セット販売で攻勢へ/総合エネ企業へ一段と加速
 都市ガス小売り全面自由化が4月1日にスタートした。新たに自由化された家庭、業務の小口分野には関西電力をはじめとする大手電力会社やLPガス会社が参入。特に電力会社は、電気と都市ガスのセット販売を軸に都市ガス会社へ攻勢をかけている。電力と都市ガスがともに全面自由化となったことで、総合エネルギーサービス企業化の流れが一段と加速している。
 都市ガス事業は年間10万立方メートル以上の範囲が既に自由化されていた。それまでの自由化範囲は市場全体の6割で、4月1日に残りの小口分野が開放されることになった。3月31日までに登録されたガス小売事業者は45者で、このうち8者が新たに都市ガス事業を行い、小口分野にも販売する。
 小口分野に参入するのは東京電力エナジーパートナー(EP)、中部電力、関西電力、九州電力の電力4社とサイサン、日本ガス(ニチガス)、レモンガス、河原実業のLPガス4社。
 既存の都市ガス会社は、東京ガスのほか、ニチガスグループの東彩ガス、東日本ガス、新日本ガス、北日本ガスがエリア外販売の登録を行った。
 LPガスのニチガスグループ、レモンガス、河原実業は東電EPから卸供給を受け、サイサンは東京ガスの卸供給先として事業を展開する。これらのことから、いずれの地域も実質的には電力会社対都市ガス会社の構図となっている。
 電力会社と都市ガス会社は、ガスと電気のトータルで安さを競い合っている。1年前の電力全面自由化と今回のガス全面自由化によって、総合エネルギーサービス企業を目指す動きが一段と強まったといえそうだ。
 全国のスイッチング件数は、4月7日時点で13万342件となった。地域別では多い順に近畿が9万6230件、中部・北陸が2万179件、関東が8977件、九州・沖縄が4956件となっている。
 数字上も圧倒的な激戦区となっている近畿は、関西電力が「関電ガス」ブランドを立ち上げ、大阪ガスと真っ向勝負を展開している。関西電力のアピールポイントは何といっても価格だ。関西電力は電気とのセット割引と早期契約割引(2018年1月末まで)の併用により、平均的な世帯で規制料金よりも年1割以上、9千円近く安くなる都市ガス料金を打ち出した。
 中部電力も電気とのセット割引により、規制料金よりも年1割近く安い都市ガス料金を設定。九州電力は電気とのセット契約のみの都市ガスメニューを組んだ。電力会社の競合相手となる都市ガス会社も、電気とのセット割引が主流だ。
 関東では、東電EPが7月の参入を目指して都市ガス料金を検討中。ライバルの東京ガスがやはり電気とのセット販売を前面に打ち出していることから、東電EPもその流れに追随するとみられる。

(電気新聞2017年5月1日付7面)