◆人材、技術維持は瀬戸際/政府レベルでの検討求める声
原子力発電所の長期停止によって、定期検査やメンテナンスに携わる工事会社の技術や人材維持に危機感が増している。工事会社は中小企業が多く、立地地域に根付いた経営を行ってきた。通常の運転サイクルなら13カ月に一度、定検工事が発生し受注量や収入の見通しが立てられていたが、売上高が東日本大震災前の半分にまで落ち込んでいる企業も出ている。特に、深刻の度合いを増しているのは、BWR(沸騰水型軽水炉)の工事やメンテナンス業務を主な収入源としてきた企業だ。新規制基準に合格して再稼働を果たしたプラントが1基もなく、このままでは原子力安全を下支えしてきた基盤が損なわれかねない。
◇多くが地元密着
原子力発電事業は裾野が広く、電力会社やメーカー、工事会社など約12万人が従事している。このうち、定検やメンテナンスに関わる工事会社は約3万3千人。多くが立地地域を事業活動の拠点としている。立地地域には複数のプラントがあり、定検実施時期がばらけていたため、中小工事会社には年間を通じて一定規模の受注があった。
ただ、2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故後、状況は一変。新規制基準対応の工事など、新たな工事が発生しているものの、軒並み受注環境は悪化している。
◇BWRに厳しく
ある電力会社の原子力関連工事に携わる企業は、13年度の売上高が震災前と比べて5割近く減少。中には震災前の水準より、売上高が約4分の1にまで落ち込んだ会社もある。地元の工事会社には、長期間の受注低迷に耐えられる財務的な基盤はなく、人員整理に踏み切った会社も出てきている。こうした傾向について、電力幹部は「日本の原子力の技術力、人材を維持できるかどうかの瀬戸際」と危機感を募らす。
PWR(加圧水型軽水炉)は原子力規制委員会による審査に合格し、徐々に再稼働プラントが増えつつあるが、BWRはまだ1基も合格に至っていない。電力幹部は「PWRは先の展望が見えつつあるが、問題はBWR。どのように技術・人材基盤を維持していくのか、電力も考えなければならないが、産業政策の観点から政府レベルの検討も必要ではないか」と話している。
(電気新聞2017年5月8日付2面)