◆投資回収困難に/廃炉判断を左右
東京電力福島第一原子力発電所事故を機に改正された原子炉等規制法(炉規法)で、原子力発電所の運転期間をいったん40年で区切り、原子力規制委員会の認可を得れば最長20年の延長運転を認めることが制度化された。この「プラス20年」の“起点”が、廃炉か延長かの経営判断を左右するとの見方が強まっている。炉規法上は「営業運転開始後40年目」が起点。ただ、新規制基準に合致するための対策工事期間が20年から差し引かれるため、投資費用の回収年数は短くなってしまう。電力幹部は「プラス20年の起点の考え方次第で、経営上の判断は大きく変わる」と指摘する。(編集委員・塚原 晶大)
炉規法に基づく手続きでは、営業運転開始から40年目を迎えるまでに、(1)新規制基準に照らした原子炉設置変更許可(2)工事計画変更認可(工認)(3)運転期間延長認可――の3許認可を取り付けなければならない。
◇実質16~17年
これまでに関西電力高浜発電所1、2号機、美浜発電所3号機が規制委の許認可審査に合格。対策工事に入っている。工期は3年程度かかるため、制度上は「最長20年」の延長期間が認められていても、実際に発電できる「残存運転可能期間」は16~17年程度。発電によって収益を得られる期間は制度上の「20年」より短い。実際、新規制基準施行時点で40年目が迫った複数の原子炉が「残存運転期間内で投資費用を回収するのは困難」との理由から廃炉判断を迫られた。
「プラス20年」のスタートラインをどこに設定するかは、将来のエネルギーミックスにも影響する。政府のエネルギー基本計画は、2030年時点の発電電力量に占める原子力比率を20~22%に設定。国内42基全てで延長運転が認められれば、この水準を割り込むのは40年代前半になる見通しだ。だが、事業者が延長運転の経営判断を下すかどうかは別問題だ。
複数の電力役員からは、3つの許認可取得後の発電再開を起点に設定するなどした“真水の20年”と、審査・工事による未稼働期間を差し引いた残存運転可能期間とでは「経営判断はまるで異なってくる。“真水の20年”なら延長運転を判断できるが、残存運転可能期間なら厳しい判断を迫られるかもしれない」との声も上がる。
◇科学的根拠は
運転期間を定めた改正炉規法は議員立法によって制定されたもので、政治的な数字といえる。停止中は原子炉容器の中性子照射脆化など、高経年化に伴う原子力発電所特有の劣化事象は進展しない。「プラス20年」の起点を「営業運転開始後40年目」に置く科学的根拠は乏しい。
規制委の田中俊一委員長は運転期間の考え方について、「法律で定められたもので、我々の考え方だけでどうこうできるものではない。いずれ議論される時がくるかもしれないが、今は考えていない」と述べ、見直しに慎重な姿勢だ。一方、事業者側には「法律論ではなく、技術論では(規制委と)対話の余地があるはず」と期待する声がある。
(電気新聞2017年6月6日付1面)