エネコミ

2017年6月配信

2017年 6月13日
FIT駆け込み申請再び/バイオマス発電、16年度末に計1100万キロワット

◆30年度導入目標上回る

 国のFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を巡り、2016年度末にバイオマス発電で計1千万キロワットを超える“駆け込み申請”があったことが分かった。17年度中の買い取り価格引き下げ決定などが背景にあり、政府が掲げる30年度のバイオマス発電の導入目標600万~730万キロワットを大幅に上回る。駆け込み申請の何割が実際に導入されるかは不透明だが、既にFITの認定を受けた設備との合計で、導入目標を大きく超過する可能性が浮上。仮に多くが認定を受け、稼働すれば兆円単位で国民負担が増えるのみならず、将来の電源構成にも影響が及ぶ懸念が広がりつつある。
 世界的にも高い買い取り価格が引き金になって起きた、いわゆる“太陽光バブル”で、手痛い市場の洗礼を受けたFITが再び試練にさらされようとしている。新たな火種はバイオマス発電だ。

 ◇価格下落の前に
 経済産業省は輸入材などを燃料に使う一般木質バイオマス発電で、出力2万キロワット以上の設備について、1キロワット時当たり24円(税抜き)だった買い取り価格を17年度10月以降は21円(同)に下げると決定。引き下げ前の価格での認定取得を狙って申請が殺到した。17年4月にFITの制度改定が控えていたことも、事業者の申請を急がせたとみられる。
 買い取り価格引き下げ前に申請が集中するのは、ある意味で当然の展開だが、問題はその量だ。関係者によると、16年度末にあったバイオマス発電の申請は設備容量ベースで計1100万キロワット。一般木質バイオマスが申請の9割以上を占める。
 既にFITの認定を受けた既存設備(約500万キロワット)と単純合算すると、合計の設備量は1600万キロワットに達する。エネルギー基本計画の下で国が掲げる30年度の導入目標の2倍を大幅に超える規模だ。燃料の木質チップの供給制約や系統の問題もあり、実際に認定を受けて稼働する設備は一部という見方が主流だが、数割が実現するだけでも30年度の電源構成の目標の一角が崩れる。
 駆け込み申請のうち、数%程度は大手電力会社やその子会社からで、大型石炭火力発電所での木質チップ混焼などを予定している。全体としては数万キロワット級の小型火力での申請が目立つようだ。ある関係者は「太陽光バブル初期に、大きな利益を上げたような事業者や外資系ファンドが再び参入している」と話す。

 ◇膨らむ国民負担
 バイオマス発電の大量導入が現実化した場合、影響は多方面に及びそうだ。最大の懸念は国民負担が一層膨らみかねない点。回避可能原価の設定にもよるが、1千万キロワット超の設備が8割を超える稼働率で動くと、FITによる年間の買い取り費用が兆円単位で増加する可能性がある。
 太陽光や風力など、発電時に燃料を必要としない設備と違い、輸入材を中心とする一般木質バイオマスの拡大が、FITの目的の一つであるエネルギー安全保障に本当に資するかについても、慎重な検討が求められそうだ。
 バイオマス発電は原価に占める燃料費の割合が高いため、買い取り期間終了後、経済的に自立できない場合、小型石炭火力に転用されるのではという懸念も出ている。
 一方、ベース電源として稼働するバイオマス発電の電気が卸取引市場に大量投入されれば、取引価格の下落を招く可能性が高い。安い電気を調達したい新規参入者にとって、調達環境の改善につながる半面、大手電力会社などが抱える大規模発電所の取引所を通じた固定費回収が一層困難になり、将来の電源投資を停滞させると懸念する声もある。

(電気新聞2017年6月13日付1面)