◆JANSIを事務局に
再稼働を果たした原子力発電所に、他電力の若手社員を派遣する取り組みが広がってきた。稼働プラントでの勤務経験がない当直課長や若手の運転員、保修員が各電力で増えたためだ。原子力安全推進協会(JANSI)が事務局となり、原子力ならではの緊張感やプラントの運転、機器の点検などを学ぶ。これまでPWR(加圧水型軽水炉)の九州電力川内原子力発電所、四国電力伊方発電所に人員を派遣してきたが、今後はBWR(沸騰水型軽水炉)の受け入れ先確保が待たれる。
新規制基準適合性審査を経て、一部の電力会社は原子力プラントの再稼働を果たしたものの、プラントの長期停止を余儀なくされている電力会社は少なくない。その間、若手を中心に「生きている原子力発電所」を知らない人員が増加。電力会社の当直課長からは、そうした人員を采配しながら、プラントの運転を行うことに不安の声が聞かれていた。加えて、当直課長自身もその役職に昇進以降、プラント運転の経験がない場合が増えており、少なからず不安の声が漏れている。
全国の14発電所を対象に、JANSIが2015年11月に行った調査によると、PWRのある発電所では、65%の当直課長が実稼働中の実務経験がないと回答。また、BWRのある発電所では、44%の補機運転員が稼働中のプラントを経験していないと答えた。
◇緊張感味わう
電力会社も手をこまねいているわけではなく、シミュレーター訓練や火力発電所への派遣を行い、技術の維持向上に努めてきた。ただ、配管の熱さや回転機器の状況など、シミュレーター訓練では分からない実稼働プラントの現場環境を経験することは、原子力の安全運転に不可欠。関西電力出身で、原子力の現場業務も経験しているJANSI安全システム本部の坂元祐二・人材育成部運転管理グループリーダーは、「火力でも発電所の現場を経験することはできるが、原子力ならではの緊張感を体感することが重要」と指摘する。
この取り組みが始まったのは16年1月。いち早く再稼働を果たした川内原子力発電所に対し、再稼働を控えていた伊方発電所から研修の要望があり、JANSIが仲介役となった。生きた原子力の現場を体感するだけでなく、トップバッターとして再稼働した川内の苦労話を聞き、「我々も負けていられない」と参加者のモチベーションが高まったという。
研修では3~4日間、朝から夕方まで当直員と行動を共にする。他社の発電所なので実際に作業することはできないが、同じように巡回点検を行い、補機のチェックなどを行う。研修にはパトローラーだけでなく、中央制御室でタービンや原子炉の運転を行う人員や、当直課長のように統括の役割を担っている人員も参加し現場を経験。「タービンがこんなにうるさく回っているのを初めて見た」と感動する声も聞かれるという。
◇BWRも期待
再稼働後には、伊方発電所も受け入れ先として名乗りを上げたほか、今後は関電高浜発電所、九州電力玄海原子力発電所も加わる見通し。四国電力のほか、研修には北海道電力、中部電力、関電が参加。今後は日本原子力発電も加わる方向で調整が進んでいる。
一方、受け入れ先がないのがBWR。BWRの浜岡原子力発電所を保有する中部電力は、PWRを訪れることなどで対応している。JANSIの坂元氏は「中央制御室の緊張感に違いはないが、管理区域と非管理区域の境界が全く異なり、やはりBWRの事業者はBWRを訪れることが望ましい」と指摘。その上で、「生きた現場の経験を積ませる仕組みを、業界全体で考えることが必要」と訴えている。
(電気新聞2017年6月26日付1面)