日本の高効率石炭火力発電技術に、海外から熱い視線が寄せられている。温暖化防止に向けた国際枠組みである「パリ協定」発効により、他の電源と比べ二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力は逆風とされがちだ。しかし、アジアなど新興国では温暖化対策以上に、電力需要の伸びに対応する電源確保が優先される傾向にある。そうした中、新興国からは“日の丸石炭火力”が持つ設備面の優位性だけでなく、「運転・メンテナンス(O&M)についても(ノウハウを)知りたい」とのニーズが寄せられているようだ。
国内では大気汚染対策や温暖化防止の観点から、石炭火力の高効率化に向けた取り組みが官民で進められてきた。1キロワット時当たりのCO2排出量を比較すると、世界平均が958グラムなのに対し、日本平均は863.8グラム。最新鋭の超々臨界圧(USC)式では806グラムにまで抑えられる。熱効率が高く、消費燃料を抑制できるためだ。
ハード面だけでなく、高効率の状態で長期間運転できるのも利点。電源構成に占める石炭火力比率が高い途上国では運転開始から短い期間で熱効率が大きく低下してしまうが、日本国内では供用期間中、高い熱効率を保ち続けている。石炭エネルギーセンター(JCOAL)の桝山直人・情報ビジネス戦略部長は「運転や保守・メンテナンスの考え方の違いが、この差を生み出している」と分析する。
「パリ協定」の発効など地球規模で環境規制が厳しくなる中、石炭火力はCO2排出の面でネガティブに捉えられやすい。ただ、中国やインドでは発電電力量に占める石炭火力比率は70%を超えているのが実態で、国際エネルギー機関(IEA)は2040年断面でも世界全体で石炭火力が最大の発電シェアを維持すると見通す。こうした海外の石炭火力を日本の最新鋭設備に置き換えることができれば、地球規模の温暖化防止につながる。経済協力開発機構(OECD)も15年、USCなどの高効率石炭火力に限り公的輸出信用の付与を認めることで合意した。
一方、海外展開を促進する上でネックになるのが、環境対策よりも電源確保を優先せざるを得ない途上国側の事情。USCや石炭ガス化複合発電(IGCC)のようなシステムより、発電開始までの「手っ取り早さ」が求められているという。
桝山部長は「日本はクリーン・コール・テクノロジーのさらなる開発と、実用化された技術の海外移転によって、地球規模での環境保全対策に貢献すべき」と指摘。それを実現するには受け入れ先への“意識付け”が欠かせない。
供用期間を通して低下しにくい熱効率など、発電所のライフサイクル全体でのメリットを受け入れ先に訴求できるかが、海外展開を加速させる上での鍵となりそうだ。
(電気新聞2017年7月5日付3面)