◆数万トン規模発生する廃棄物処理、整備が急務
今年度に原子力規制委員会から認可された軽水炉の廃止措置計画が、相次いで実作業の段階に入っている。4月に規制委から認可されたのは関西電力美浜発電所1、2号機、中国電力島根原子力発電所1号機、九州電力玄海原子力発電所1号機、日本原子力発電敦賀発電所1号機の5基。6月に認可された四国電力伊方発電所1号機は、廃止措置に関する地元自治体からの了解待ちという状況だ。各社とも安全最優先での工事を進めていく考え。その一方で、コスト削減や廃棄物処分場の確保なども必要で、解決すべき課題は依然多い。(土井 啓史)
美浜1、2号機などの5基は2015年3月、伊方1号機は16年3月にいずれも廃止を決定していた。これらは運転開始から40年前後を迎えていた高経年化プラントで、出力も30万~50万キロワット台と比較的小さい。「40年超運転」が認可された場合でも、新規制基準対応の追加投資や運転可能期間との見合いで十分な採算が見込めないことに加え、廃炉に関する国の会計制度が整ったことも各社の判断を後押しした。各社は廃炉の方針を決定した後、原子炉等規制法(炉規法)に基づく廃止措置計画をまとめ、認可申請を行っていた。
◇3~4段階で
認可後の各プラントの廃止措置は、3~4段階で進んでいくことになる。4段階で進めるプラントを例に取ると、第1段階は解体工事の準備期間、第2段階は原子炉周辺の設備を解体する期間、第3段階は原子炉本体を解体する期間、第4段階は建屋を解体する期間となる。唯一、廃止措置を3段階で進める敦賀1号機は、解体工事準備と周辺設備の解体期間が統合されている。
廃止措置の完了時期は敦賀1号機が40年度、玄海1号機が43年度、美浜1、2号機と島根1号機が45年度、伊方1号機が56年度となっている。敦賀1号機以外の5基については、申請の中で第1段階までの具体的事項を記載している。第2段階以降については、解体前に変更認可申請を行う見込み。このため、計画は終了時期を含め、流動的な部分を残している。
廃炉作業への着手は、地元自治体からの事前了解を必要としない福井県内の3基が先行する形となった。美浜1号機は今年4月、2号機は5月からそれぞれ既設配管の改造工事などの作業を実施。その上で、1号機は1次冷却水が流れる系統の配管内に付着した放射性物質を取り除く「系統除染」に8月から着手した。2号機でも11月頃から系統除染を開始する見込み。敦賀1号機では5~6月にタービン建屋1階にある排水ピットの除染工事を行った。今年度下期にはタービン、発電機や制御棒駆動水圧ユニットの解体に順次着手する予定だ。
一方、島根1号機と玄海1号機はいずれも7月に廃止措置に関する事前了解を地元自治体から受け、廃炉作業に入った。島根1号機では当面、施設内の汚染状況の調査などを進める計画。玄海1号機は、系統除染のための準備作業を今年度中に終える予定という。伊方1号機は、地元の了解を得た時点で廃炉作業に移る考えだ。
◇コスト削減も
電力小売り全面自由化の中で本格的に幕を開けた「廃炉時代」。作業安全を確保しつつ、コストダウンを図ることは各社共通の課題だ。原電は米国の廃炉専門会社エナジー・ソリューションズ(ES)と協力関係を構築。同社が有する豊富なノウハウを活用し、敦賀1号機でのテストを経て、将来的に国内他社の廃炉を支援していく青写真を描く。また、立地地域の振興策の一環として、地元企業の優れた能力を発掘して活用する仕組みの整備と定着も急がれる。
廃止措置によって発生する低レベル放射性固体廃棄物の処分も難題だ。制御棒など放射能レベルが比較的高い「L1」、周辺機器や消耗品などの「L2」、コンクリートや金属などの「L3」は、6基で単純合算するとL1が510トン、L2が5770トン、L3は2万3600トンに及ぶ。
これらの具体的な処分方法は、まだ確立されておらず、廃炉の進展に応じて解決策を早急に見いだしていく必要がある。特に、L1は大部分の放射性物質の減衰に10万年程度かかり、非常に長期間の閉じ込めが求められている。原子力規制庁ではL1について、地下70メートル以深に埋める「中深度処分」を行う前提で、審査のための規制基準づくりを進めている。
(電気新聞2017年8月18日付1面)