◆供給安定性に悪影響も
米エネルギー省(DOE)は、米国の電力供給の安定性に関する調査報告書をまとめた。石炭火力や原子力発電などベースロード電源の計画外の早期廃止が続いており、将来の供給安定性に悪影響を与え得ると指摘。早期廃止の最大要因は天然ガス火力のコスト低下とし、(1)電力需要の鈍化(2)再生可能エネルギーの低コスト化(3)ベースロード電源の環境規制対応費用の増加――も影響しているとした。官民の対策として、卸電力市場でベースロード電源の価値がより評価されるような価格形成作業を速やかに進めることなど7点を提言した。
調査報告書はDOEのスタッフがまとめ、8月23日付でペリー長官に提出した。ペリー長官は4月にベースロード電源の早期閉鎖の原因や、卸電力市場の機能状況など3点を重点的に調べるよう指示していた。ベースロード電源の定義には天然ガスと水力も含まれている。
同報告書によると、ベースロード電源の廃止容量は2012年以降顕著に増え、16年までの5年にわたり年間1千万キロワット強(14年)から同2500万キロワット強(15年)の間で推移した。石炭火力は10年から15年の6年間をみると3700万キロワットが廃止され、同期間のベースロード電源廃止容量の52%を占め最多だった。原子力は13年から16年の4年間で5発電所・466万キロワットが閉鎖された。
16年から20年までの5年間では3400万キロワット強のベースロード電源が廃止を予定。内訳は石炭火力が49%で、経年化した天然ガス火力が30%、原子力が15%と続いている。
石炭や原子力の廃止理由は、天然ガス火力の電力が卸電力市場で安く取引されるなど、経済性の要因が大きいとした。環境規制に対応した投資の拡大や州政府の政策圧力、再生可能エネへの補助も要因に挙げた。例えば、米テキサス州では風力発電が大量に導入されており、需要の少ない夜間には供給過剰となって、卸電力市場価格が極端に低くなるケースも出ている。
DOEは現状を踏まえて、連邦エネルギー規制委員会(FERC)などの政府機関と民間が協調した対応策を提言。FERCが系統運用機関と協力し、卸市場でベースロード電源の価値がより反映される適切な価格形成作業に迅速に取り掛かることや、供給信頼度の確保に貢献する系統運用者への報酬提供メカニズムを構築することなどを挙げた。
DOE自身は、再生可能エネの拡大を踏まえた柔軟で信頼度の高い系統技術の研究支援、電源や送配電設備の許認可手続きの迅速化や規制コストの低減、電力分野の労働力育成支援に努めることが必要だとした。
(電気新聞2017年9月1日付1面)