エネコミ

2017年11月配信

2017年 11月22日
[インサイト]COP23閉幕/先進国と途上国、溝深く

 ドイツのボンで開催されていた国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)が18日に閉幕した。温室効果ガス排出削減の国別目標の妥当性を検証する「促進的対話」で合意するなど一定の成果はあった。ただ、これまでの先進国の削減努力や資金援助を巡る対立の根深さもあらためて浮き彫りとなった。パリ協定の運用ルールは、来年末のCOP24で合意を目指している。「前哨戦」と位置付けられたCOP23の評価は。(高橋 恭平)

◆パリ協定運用ルール、来年の結論は微妙な情勢

 「パリ協定に命を吹き込む作業」。ある環境保護団体の関係者は運用ルール策定の議論をこう表現する。2015年に採択され、異例の速さで発効したパリ協定だが、まだ大枠しか決まっていない。COP23では、この議論がどこまで進むかが焦点だった。
 運用ルールの策定では、削減目標を5年ごと改善し提出する仕組みなどについて、各国の主張を並べた文書が完成した。だが、項目によっては180ページを超えるなど文量は膨大で、中身は精査されていない。有馬純・東京大学公共政策大学院教授は「来年までにルールブックの形に落とし込めるかどうか、ハードルは相当高い」と指摘する。来年のCOP24で正念場を迎えることになるが、「19年に結論が持ち越される可能性も低くない」とみる。
 促進的対話は来年1月から実施することで合意。政府だけでなく、企業や自治体など「非国家アクター」からも意見を募る。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が来年に取りまとめる「1.5度目標特別報告書」も踏まえて議論することになった。今後、先進国の目標引き上げに向け厳しい意見が出ることは確実だ。促進的対話は「タラノア・ダイアログ」と呼ばれる。タラノアは、フィジーの言葉で透明性や調和を意味する。お互いに協力的な雰囲気の中で議論するはずだが、そこが対立の場になる可能性がある。
 パリ協定は20年以降をターゲットとした枠組みだ。ただ、COP23で最も溝が深まったのは、20年までを対象とした先進国の削減努力を巡る議論だった。18、19年に見直しの場を設けることで決着したものの、先進国にとっては途上国に新たな要求の場を与えたことになる。有馬氏は「全体としての合意形成が難しくなるなるだろう」との見方を示す。

◆英、加などが撤退表明"脱石炭"も一枚岩でなく

 一方、注目された米国の動きはどう映ったか。トランプ大統領は6月にパリ協定からの離脱を表明。オバマ政権時と比較し、COP代表団も3分の1程度に縮小した。ただ、トランプ政権の目下の関心事は、米国の削減目標緩和や資金支援の縮小で「パリ協定の細かい規定には関心がない」との見方が多い。
 会期中、日本への視線は厳しさを増した。6日に発表された「日米戦略エネルギーパートナーシップ」で気候変動に関して言及がなかったことも、環境NGO(非政府組織)の批判の的となった。石炭火力もやり玉に挙がった。ただ、こうした動きについて、杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所上席研究員は「石炭が安全保障上から必須であり、石炭たたきが国際政治秩序を不安定化させる場合もあることは全く配慮されていない」と指摘する。
 英国とカナダが主導した石炭火力撤退を目指すアライアンスが発足するなど、否定的な意見が相次いでいる。その一方で、アライアンスには米国、中国、インドのほか、再生可能エネルギーの導入に積極的なドイツも加わっていない。雇用問題やエネルギー構造など、石炭火力を巡る事情は国ごとに異なる。世界が「脱石炭」で一枚岩になっていないことも露呈された。
 パリ協定は京都議定書と異なり、先進国、途上国関係のない「全体共通論」の枠組みだ。「二分論」の世界に戻しつつ資金援助を拡大したい途上国と、共通の枠組みを維持しつつ支援増大は避けたい先進国。総論はともかく各論に入る中で、COP24で決着するのか。有馬氏は「パリ協定を採択したフランスのように、高度な外交テクニックを駆使できるかが鍵」と話す。議長国であるポーランドの手腕が問われることになりそうだ。

(電気新聞2017年11月22日付2面)