大手電力9社の送配電部門は、周波数維持に使う調整力の広域活用を目指し、連携を強化する。再生可能エネルギーの急拡大が電力の安定供給に及ぼす影響や、需給調整費用の増加に対する懸念を踏まえ、エリアを越えて安価な調整電源を調達する取引の仕組みなどを9社で検討する。既に取り組みの方向性について大筋で合意しており、今後は今年度中の基本協定締結を視野に、詳細な議論が進む見通しだ。「民」が主導する送配電部門の提携のモデルになるか注目される。
9社枠組みが浮上したきっかけは中部、北陸、関西の電力3社が2017年6月に公表した送配電部門の相互連携だ。
3社が検討課題に挙げたのは、お互いの送電線が混在する地域での設備形成最適化と、需給調整広域化の2つ。前者は地理的に近接する3社固有の課題だが、後者は3社にとどまらず、全国に広げることで効果が高まる可能性が高いことなどから、他の6社(沖縄を除く)を含む電力大の枠組みへの拡大を目指し、水面下で協議が進められていた。
需給調整の広域化を巡っては、東京電力パワーグリッド(PG)も新々・総合特別事業計画に掲げた送配電の共同事業体設立を視野に、同じ東日本地域の北海道電力、東北電力の感触を探っていた。ただ、実質国有化された東電主導の枠組みでは、再編・統合に巻き込まれるとの懸念が各社で根強く、協議の妨げになっていた。
9社枠組みが発足すれば、電力大で需給調整の広域化を議論する土台が整う。具体的には、周波数維持義務を担う各社の送配電部門が地域ごとに確保していた調整電源を、地域外を含めて安価な順に調達・運用できるようにする仕組みづくりが当面の検討課題になりそうだ。
全国規模で調整力を安い順に活用するメリットオーダーが実現できれば、再生可能エネの出力変動などに対応する需給調整費用の抑制と、調達コストの透明性向上につながる。また、調整力の広域活用とは別に、再生可能エネの受け入れ余地が少ないエリアから、余裕のあるエリアに電気を融通するなどの試みが進めば、再生可能エネの出力抑制量を最小化する効果も期待できる。
一方、これらの取り組みによって燃料費がいらない再生可能エネの受け入れ余地が増えれば、限られた電力市場のパイを巡り、競争から脱落する火力電源が増加したり、開発が停滞する事態も懸念される。
経済産業省は昨年末に開催した電力システム改革の作業部会で、20年度に需給調整市場を創設し、同市場を通じてエリアを越えた調整力の調達・運用を進める考え方を示している。
電力系統の広域運用に関わる制度設計は現在、電力広域的運営推進機関(広域機関)が中心に担っており、需給調整市場を巡る詳細設計も主導する見通し。9社枠組み発足後は、広域機関の議論を踏まえつつ、安定供給を担う一般送配電事業者が「民」の主体性を発揮し、効率的な取引の仕組みやシステムを提案できるかが問われそうだ。
(電気新聞2018年1月5日付1面)