九州電力の発電所や配電事業所は、電力を安定供給するという強い使命感を持ち、グループ会社・協力会社とも一体となり日々の業務に取り組んでいる。電力システム改革などの環境変化にも的確に対応し、効率化と信頼度向上の両立に注力してる。ここでは、今年1月に1号系列のガスタービン更新工事が完了した新大分発電所と、災害の未然防止や効率的な設備保全に努める行橋配電事業所の最新動向を紹介する。
◆新大分発電所/重要性増す高効率火力
◇1号全軸がGT更新完了/太陽光急増受け役割変化
新大分発電所(稲田龍一所長)は、九州電力初のLNG(液化天然ガス)コンバインドサイクル方式発電所として1991年6月に1号系列(11万5千キロワット×6軸)が運転を開始した。
それ以降、2号系列(23万キロワット×4軸)が95年2月、3号系列1〜3軸(24万5千キロワット×3軸)が98年7月に運開。2016年6月には、出力45万9400キロワットの3号系列4軸が営業運転を開始。1〜3号系列合計で出力約280万キロワットを誇る九州電力最大の火力発電所となった。コンバインドサイクルの高い発電効率により、環境負荷低減とコスト競争力を兼ね備えた火力発電所として九州エリアの電力安定供給に大きく貢献している。
1月には1号系列全6軸のガスタービン更新が完了。高効率型へのリプレースで、発電効率(低位発熱量)が48%から51%へ上昇、燃料消費量と二酸化炭素(CO2)排出量の削減を実現した。
◇14ユニット
発電所の人員は、稲田所長以下、副所長、技術グループ、発電グループに加え、1〜3号系列にそれぞれ対応した保修第1〜3グループがあり合計110人。「発電設備が14機と多いため、系列ごとにメンテナンスを受け持つ保修グループを設置している」(佐藤秀吉・技術グループ長)。
稲田所長は、「新大分の担う役割は年々大きくなっている」と話す。もともとコンバインドサイクルによる起動停止の柔軟性を生かした中間負荷火力(ミドル電源)として運用されていた同発電所。近年、東日本大震災後の原子力発電所停止や太陽光発電の連系増加など、電力事業を巡る環境変化に伴い、その運用も変化してきた。それを端的に表すのが、年度ごとの起動停止回数の増減だ。
震災前のピーク時に年間2300回を超えていた起動停止が、11年度は380回に急減。その理由について稲田所長は「原子力発電所の全台停止により、ミドル発電からベースロード電源としての運用に変わったため」と説明する。
その後、15年度に川内原子力発電所が再稼働したことでベースロード電源としての役割が低下。一方で、太陽光発電の急増に対応した需給調整に活用されるようになる。起動停止回数は16年度に790回、17年度は第3・四半期時点で、すでに919回と顕著に増加している。
稲田所長は「DSS(毎日の起動停止)そのものはミドル電源を想定した当初計画通りだが、(発電を)止める時間帯が昼夜逆転した」と話す。震災以前のミドル電源運用時には、朝に発電機を起動し昼間の需要増に対応、需要の落ちる夜間に発電を停止していた。しかし、15年度以降、太陽光発電の出力が増加する昼間に発電機を停止、太陽光出力が落ちる夕方までに発電機を起動させるというこれまでとは反対の運用を行っている。
起動停止指示に迅速に対応できるコンバインドサイクルの特性を生かして、太陽光など再生可能エネルギー普及を需給バランスの面から支えているというわけだ。供給力に占める太陽光の発電割合が高かった昨年4月30日の昼間帯には、14機中11機を止めて対応。「起動停止の素早さに加え、14機という設備数も、需給調整能力にしなやかさをもたらしている」(稲田所長)。
玄海原子力発電所の再稼働が迫り、太陽光発電の導入もさらに進む中、需給調整機能の確保はますます重要になる。安定供給における新大分発電所への役割はさらに高まっていきそうだ。
◇五感大切に
そうした中、トラブル等による計画外停止は電力供給全体に大きな影響を与える。稲田所長は発電設備の健全性確保に向けて、「所員には五感を働かせることが大切と伝えている」という。「現場に足を運び、通常の状態を体で覚えることで、トラブルの予兆を『違和感』として感じることができる」からだ。技術・技能の継承に向けても「定期検査やオーバーホールなどが、他の発電所より多い。それらを学習機会として生かすことで技術や知見向上にもつながる」と所員に呼び掛ける。
ミドル電源からベースロード、さらに出力変動調整など、与えられた役割に応え続けてきたことも踏まえ、稲田所長は「我々がスタンバイしておくことで、九電全体でより経済的な需給運用ができる」と強調する。所員に向けては「九州電力最大の火力発電所ということに誇りと責任を持って、業務に対して常にチャレンジ精神を持って臨んでほしい」と期待を寄せる。
◆行橋配電事業所/効率的な設備保全に力
◇職場の健康と安全大切に/ドローンで巡視高精度化
行橋配電事業所(池尻信也所長)は、福岡県北東部の京築(けいちく)地区の2市5町(行橋市、豊前市、苅田町、みやこ町、築上町、吉富町、上毛町)が供給エリア。総面積は約566平方キロメートルで、北九州支社エリア内の26%を占める。行橋市は近年、北九州市のベッドタウンとして住宅開発が進み、北部の苅田(かんだ)町は自動車関連産業やセメント産業が集積。また、24時間発着可能な北九州空港や航空自衛隊の築城基地などの重要施設を抱えており、設備保全に努めている。
2017年3月末現在の主要設備をみると、配電用変電所7カ所、配電線亘長は2458キロメートル、支持物は4万3716基となっている。
同事業所は、池尻所長以下、設備管理グループ、設備建設グループ、託送業務グループの計48人で構成する。
◇越境し復旧
同事業所は南北に長いエリアの北部に位置するため、南部エリアへの移動は車で1時間程度かかる。このため、福岡・大分の県境に近い、大分送配電統括センターの中津配電事業所との「ボーダーレス運用」を、13年3月から開始した。これは、顧客サービスレベルの維持・向上を目的に、突発的に発生する高圧配電線事故発生時に、エリア外からの応援を行うもの。豊前市の一部と吉富町、上毛町の8回線の配電線が対象で、供給支障事故が発生した場合には、中津の所員が10分程度で現地に到着し、事故原因探査などの初動対応を行う。その後、40〜50分で行橋の所員が到着し、復旧作業を行うことで早期送電に努めている。
この応援はこれまで計3回実施されたが、定期異動によりメンバーが変わることもあるため、年1回の訓練を実施。作業員だけでなく、制御指令担当なども含めて、連絡方法・手段や役割分担などについての確認を行っている。
健康管理と安全確保の徹底では、池尻所長は「仲間への『目配り、気配り』を心掛けて、健康の維持と、危険を感知する感受性を高めることで災害防止に努める」を基本方針に掲げ、取り組みを進めている。具体的には、安全行動に関するアンケートを年2回実施。各人が自己の安全運転や安全作業を振り返るとともに、事業所全体の傾向を分析、評価。その上で、「所員へのフィードバックと、さらなる安全意識の向上に向けた諸施策などに逐次反映している」(池尻所長)という。
また、夏季・冬季安全推進期間の重点取り組み事項として、グループ一体となった安全意識の醸成に向けて、委託工事会社の所長、副所長や作業員との意見交換会を実施。重大災害の撲滅を図るという共通認識の下、互いに安全行動に関して、率直な意見交換を行っている。
ヒューマンエラー(HE)事故撲滅に向けては、朝礼時に所員に対して、過去の全社大でのHE事故事例を、それぞれの発生日に記入した日めくりカレンダー形式で周知し、注意喚起。「事故が発生した同時期(季節)の環境や天候などを思い浮かべながら、決して類似事故を発生させないという強い気持ちで日々の作業に取り組んでもらっている」(池尻所長)という。
◇カラス対策
設備保全面では、支持物のカラス営巣と樹木対策で効率的な取り組みを進めている。カラス営巣に対しては、従来の全数撤去を昨年から原則、残置するように方針転換。事故につながらないような箇所は残置するとともに、設備に触れるような枝を剪定(せんてい)することで対処している。撤去後に別の場所に営巣を繰り返すことが無くなったことで、営巣基数、撤去回数とも減少したという。
樹木対策では、15年度から伐採実績などを記入した「樹木マップ」を作成し、巡視エリアの絞り込みなど効率化につなげている。このほか、直営伐採や計画伐採も実施。直営伐採は技術訓練にも織り込んでおり、技能の維持・向上を図る狙いもある。
また、巡視が困難な山越えの配電線路で、通信部門の協力を得て、ドローンを活用した巡視も今年度から開始した。多段式の継ぎコンクリート柱(高さ34.5メートル)13基を対象に、地上から視認が困難な樹木接触箇所を発見できるなど、効率的かつ高精度の巡視を実現した。
一方、地域共生活動では、11年度から桜やアジサイの名所で、地域の憩いの場となる殿川ダム(苅田町)沿いの清掃活動を行橋営業所と共同で実施。今年度からは苅田発電所と九電ハイテック行橋工務所も参加し、年2回のボランティア活動を通じて、地域とのつながりを大切にしている。
(電気新聞2018年3月7日付7面)