◆即時停止せず
九州電力の瓜生道明社長は5日、鹿児島県庁で三反園訓知事と会い、川内原子力発電所を直ちには停止せず、知事からの要請に沿った「特別点検」を、10月からの定期検査の中で実施して安全性を確認するとした回答書を手渡した。周辺活断層の観測点の拡充、自治体の避難計画の支援策や情報発信の強化策も示した。三反園知事は「極めて遺憾」とする一方、その後の報道陣の取材には「安心・安全が進んだ」と回答に一定の評価を与えた。特別点検の実施状況を視察する考えも明らかにした。
三反園知事は8月26日、熊本地震を受けて県民の不安が高まっているとして、川内原子力を直ちに停止し点検することや、周辺活断層の調査、避難計画の支援、情報発信の改善を要請していた。
5日の回答書手交に際し、瓜生社長は「知事の要請を重く受け止め、県民の皆さまの不安を軽減するため新たな取り組みを実施する」と説明。三反園知事は「(定検までは停止しないことを示した)回答書は極めて遺憾だ。じっくり読み、必要があればあらためて要請する」と述べた。
特別点検は、(1)燃料取り出し後の原子炉圧力容器内を水中カメラで点検(2)格納容器スプレー配管の取り付け状態点検(3)使用済み燃料ピットのラックに変形がないか、水中カメラで点検――など10項目。40人程度の総点検チームも設ける。1号機で10月6日、2号機で12月16日から約2カ月実施する定検の中で実施する。
周辺活断層については、地震観測点を現在の19カ所から30カ所程度に増強し、観測結果を定期的に公表する。自治体の避難計画に対しては、要支援者避難用車両十数台を追加配備するなど支援を強化する。
情報発信の面では、発電所内で観測した地震動データの即時公表や、特別点検に関する冊子の県内全戸配布などを実施。30キロメートル圏内の自治会長約1200人、30キロメートル圏外の各種関係団体の代表らを訪問し、「フェース・ツー・フェース」で今回の回答内容を説明する。
(電気新聞2016年9月6日付1面)
◆九州電力が川内停止要請に回答/避難計画支援など盛り込み、不安軽減へ最大努力
熊本地震の後も安全上の問題がない川内原子力発電所を止めることはしない――。九州電力は三反園訓鹿児島県知事への回答で原則を堅持した。一方で「直ちに停止」の一点を除けば通常の定期検査の範囲外の特別点検の実施をはじめ、知事の要請に最大限応える姿勢をみせた。
九州電力は知事から要請のあった7項目を含む10項目について特別点検を実施する。瓜生道明社長は「運転中でも点検できる項目がある」とし、定検開始を待たず準備出来次第、取り掛かる考えだ。
自治体の避難計画に対しても、要支援者の避難用車両の追加配備というハード面だけでなく、移動介助の基礎知識習得といった社員の支援スキル向上策まで打ち出した。情報発信の改善を含め、「県民の不安」軽減に向けたきめ細かな取り組みを示した。
三反園知事は「(九州電力が)要請に応じて安心・安全が進んだ」と評価。今後も何らかの要請を行うことに含みを残しつつ、「特別点検がどう行われるか、視察して確認したい」と明言した。
今後は定検終了後の再稼働を知事が容認するかが焦点となりそうだが、現時点で状況は不透明だ。ただ点検を視察するとの表明は、知事が就任以来避けてきた節のある九州電力との直接のコミュニケーションの第一歩となるのではないか。
法的権限とは関係なく様々な要請を行う以上、知事にはその理由や要請の結果を議会や県民に丁寧に説明する義務がある。「文書の応酬」にとどまらず、同社と率直な意見交換をできる関係を構築していくことが求められる。(一場 次夫)
(電気新聞2016年9月6日付1面)
◆九州電力が川内停止要請に回答/運転継続判断の規制委「県対応、理解に苦しむ」
九州電力川内原子力発電所の安全性と熊本地震の影響を巡っては、原子力規制委員会が発生直後に「継続運転しても安全上の観点からは問題ない」と判断していた。規制委内には、要請自体が「理解に苦しむ」という声が強かった。
自然災害などで事故につながる恐れがあると判断した場合、規制委は原子炉等規制法(炉規法)64条に基づき停止を求めることができる。この条文に照らし規制委は、運転を継続しても安全上問題はないとの判断を導いた。地震発生直後の4月18日、田中俊一委員長は臨時会合後の会見で「特段の根拠もなく停止を求めるのは簡単ではない」と強調した。
九州電力に対する三反園訓鹿児島県知事の要請には、周辺活断層の調査を行い、異常がないかを調べるよう求める文言がある。川内原子力の地震関係審査に当たった原子力規制庁幹部は「何を調べろといっているのか。十分に調べている」と色をなした。
川内原子力の近傍には「市来断層帯」「甑(こしき)断層帯」が走る。基準地震動(Ss)を策定する上ではこの2断層帯の長さ、地震規模が厳しく評価された。熊本地震の震源断層とされる「布田川・日奈久断層帯」は敷地から震央までの距離が約92キロメートルと離れており、「市来」「甑」両断層帯と比べて揺れは減衰して敷地へ到達する。それでも規制委は「布田川・日奈久断層帯」の活動による影響を保守的に評価。熊本地震で観測された最大マグニチュード(M)が7.3だったのに対し、規制委の審査ではM8.1の地震を引き起こす断層帯と評価した上で、川内1、2号機の原子炉設置変更許可を出した。規制委にとって熊本地震は「想定外」ではなかった。
熊本地震と川内原子力の関係を巡っては先の通常国会でも頻繁に取り上げられた。その都度、田中委員長らが継続運転に問題はないとした判断根拠を答弁。根拠がなくても停止すべきという声は次第に沈静化した。
三反園氏の知事就任後も、規制委は説明を求められれば対応する姿勢を示していた。だが、三反園知事サイドからは事務レベルも含めて接触はなく、規制庁関係者は県側の対応に首をかしげた。(塚原 晶大)
(電気新聞2016年9月6日付1面)