◆土砂崩れ被害の6.6万V黒川一の宮線/基礎強化、6月本復旧へ
◇鉄塔15基新設/地盤調査しルート設定
2016年4月16日。未明に発生した熊本地震本震による影響で、九州中央部の雄峰・阿蘇山の懐にあたる一の宮・高森地区(熊本県阿蘇市、高森町、南阿蘇村)で大規模な土砂崩れが発生した。6万6千Vの黒川一の宮線と高森分岐線は使用不能に陥った。停電した計約3万3千戸に対し、九州電力は全国9電力の応援を得て高圧発電機車169台による広域・大規模な応急送電を展開した。このとき、仮復旧した送電設備は1回線。本復旧工事を6月に終え2回線での運用を開始する計画で、被災から1年超を経て、ようやく本来あるべき姿を取り戻す。
◇環境に配慮
本復旧工事では、黒川一の宮線(亘長3.86キロメートル)で14基、高森分岐線(同1.08キロメートル)に1基の計15基の鉄塔を新設。加えて高森分岐線では既設鉄塔2基を流用する。鉄塔の高さは平均約50メートル。16年11月に着工し、17年6月の運用開始を目指す。現在の仮復旧設備は鉄塔、鉄柱での1回線による送電だ。
本復旧ルートは震災以前の送電線の近傍をベースに決めた。地表踏査や地盤調査の結果を踏まえ、断層区域を避けて安定した地盤箇所にルートを設定。また、住宅密集地やゴルフ場を迂回(うかい)するなど、周辺環境にも配慮した。この本復旧ルートと仮復旧ルートが数カ所で接近あるいは交差する場所が4地点ある。このまま工事を進めると作業者が感電する恐れがあるため、いったん別ルートを建てて対処するという。
鉄塔の基礎については掘削深度が浅く済む基礎4脚一体型のマット基礎をベースに、敷地の傾斜が厳しい場所については基礎4脚をコンクリートの梁(はり)で連結するラーメン梁を採用。堅固な岩盤に鋼管杭で支持させる杭基礎を採用することで強度を高めた。
◇杭打機追加
九州電力電力輸送技術センター送電工事グループの藤岡幸治グループ長は「計画通りに進んでいるか、大変気を遣っている」と話す。全基で杭工事を行うため掘削の遅れは全体の工程に大きく影響を及ぼす。そのため杭打機の台数を追加するなどで慎重に工程調整に努めている。
仮工事部分については、後で撤去することを考慮した工法を採用した。井桁に組んだH鋼の上に鉄板を敷き詰め、重さでバランスさせる工法で産業廃棄物が出ない。また、深い掘削やコンクリート打設が不要という。
大規模な土砂崩れで崩落した阿蘇大橋の建設工事との調整など、本復旧工事には制約も多い。道路も寸断されているため大幅な迂回が必要で、場所によっては車両の往来が集中し、渋滞が発生することも珍しくない。
◇ヘリで延線
3月27日には阿蘇大橋の建設予定地付近に新設された鉄塔で、ヘリコプターによる延線工事が行われた。ヘリがゆっくりと鉄塔間に細いナイロンロープを渡した。この細いロープを徐々に太いワイヤロープに引き替え、電線とワイヤロープをつなぎ、電線と引き替える作業を行う。大半の区間ではドローンによる延線が行われるが、鉄塔間に深い谷があるため、ドローンの高度制限である150メートルを超えてしまう区間や風が強い区間ではヘリを使う必要がある。
ひび割れた道路など、被災地周辺では震災の爪痕がいまだ生々しく残っている。そうした中にあって、安定供給を確保し続けるための設備は着実にその姿を取り戻そうとしている。
16年4月14日、16日と震度7が続いた熊本地震から1年がたつ。16日の本震直後、熊本県内を中心に最大約47万戸が停電したが、九州電力は全国の電力会社から資機材や要員の応援を受けて数日で解消。大きな被害が発生した送配電設備も迅速に仮復旧した。同社は今も現地で本復旧のための取り組みを続ける一方、南海トラフ地震などを想定し災害への備えを強化している。この間の取り組みを追った。
(電気新聞2017年4月14日付1面)