◆燃料、資材調達体制も強化/広域協力と運用力が鍵
熊本市、上益城郡(益城町など5町)、美里町にまたがるエリア(顧客約31万戸)を受け持つ九州電力熊本東配電事業所。建物の倒壊などに伴う電柱や配電線、引き込み線の被害が約1万2千カ所に上った。
2016年4月16日の本震後の停電率は100%。仮復旧工事を急ぎ、18日夜には土砂崩れなどで進入できない箇所を除き高圧送電を再開できた。その後は順次、新たな電柱を建て電線を移設するといった本復旧作業を進めている。
本復旧作業は、台風襲来時の被害が懸念されるなど「リスクが高い箇所を優先している」(堀田真人・熊本東配電事業所設備保全グループ長)。ただ、予想外に時間を要しており、被害が大きかった益城町の場合、約3千カ所の被害に対し本復旧が完了したのは4割程度(今年2月末時点)にとどまる。
背景には、エリア内で建物の復旧・建て替えに伴う供給工事が増加していることがある。16年度の供給申し込みは15年度比5割増の約2万件。17年度はさらに増加する見通しだ。
◇歩調合わせ
増本秀樹・熊本東配電事業所長は「お客さまに安心して頂くため、本復旧を早期に終わらせたい」と力を込める。16年8月には復旧工事の専門部署を新設し設計要員を増やした。エリア内の委託工事会社の作業者に加え、九州全域から毎月約40人の応援が投入されている。強化した態勢の下、17年度中の本復旧完了を目指す。
本復旧はいわば“原状復帰”。加えて、被災地域の復興と歩調を合わせた設備形成という長丁場の課題がある。
自治体に対しては、道路管理行政との行き違いで手戻りが生じないよう復旧工事の進捗を丁寧に説明したり、解体工事業者向けに感電事故防止の周知を依頼したりしてきた。今後も、復興計画をつかさどる自治体との連携を一層強めていく考えだ。
熊本地震では、災害時の資材調達能力も試された。本震後、一の宮・高森地区(阿蘇市、高森町、南阿蘇村)に通じる唯一の送電線が使用不能になり、3万3千戸が停電した。全国の電力会社から応援を受けて、169台と前例のない数の高圧発電機車が地区一帯に展開。送電線が仮復旧する28日夜までの間、応急送電を行った。
土砂崩れなどで道路が寸断される中、広範囲に点在する高圧発電機車用に大量の燃料(軽油)と、小型タンクローリー(4キロリットルクラス)50台、ドラム缶(200リットル)約700本を確保。確実に燃料を供給する仕組みをつくり上げた。
こうした対応を可能にしたのは、他電力、経済産業省、石油連盟、全国石油商業組合連合会など全国大の支援。日頃構築していた協力関係が功を奏した。
一方で、給油施設の情報の不足や、電力各社から石油販売事業者への供給依頼の重複など、混乱も発生。このため地震後、電力業界、石油業界、経産省が連携し、非常時における燃料供給体制の整備を進めている。
◇海陸空路で
九州電力は13年から陸上自衛隊と非常災害発生時の連携協定を結び、定期的に復旧資機材の輸送訓練などを行ってきたが、16年秋に燃料の空輸を訓練メニューに追加。今月には海上自衛隊とも協定を締結した。
永友清司執行役員・ビジネスソリューション統括本部業務本部副本部長は広域の道路寸断に備える観点から、「海路、陸路、空路の確保が自衛隊との連携で可能になる」と期待を寄せる。
資材調達部門では熊本地震の対応記録からノウハウを抽出し、17年度中にマニュアルを策定する。今月には、「非常災害時の対応に厚みを持たせる」(永友副本部長)ため、調達から輸送まで一元的に担当する「ロジスティクスグループ」(20人)を新設した。定期的な訓練を通じた災害対応能力の向上も図っていくことにしている。
(この連載は九州支局・一場次夫、大塚隆史が担当しました)
(電気新聞2017年4月18日付1面)