◆各係争で争点化
「仮処分ショック」に歯止めがかかりつつある。今年に入って、原子力発電所の再稼働差し止めを求めた仮処分申請で、住民側の訴えを退ける司法判断が相次いでいる。九州電力玄海原子力発電所3、4号機を巡る今回の佐賀地方裁判所(立川毅裁判長)の決定も、一連の流れを引き継ぐ妥当な判断だ。(土井 啓史)
決定骨子では、審査の在り方として、原子力規制委員会の審査基準や審議・判断の過程で不合理がないことの疎明を債務者(九州電力)が尽くせば、原子炉の運転に起因する具体的な危険性は「債権者(住民側)が疎明しなければならない」と指摘。この点は、昨年3月の大津地裁による関西電力高浜発電所3、4号機の稼働差し止めを、今年3月に大阪高等裁判所が取り消した決定と同様の考えに基づいている。
その上で、立川裁判長は玄海3、4号機の(1)基準地震動(Ss)策定の合理性(2)配管の安全性――と2つの争点を示し、新規制基準の内容や九州電力による健全性確保、重大事故対策の取り組みを追認し、不合理な点はないと結論付けた。
特に、Ssを算出するための計算式である「入倉・三宅式」では、震源特性化の手続きが「現在の科学技術水準に照らして合理的で、有効性についても検証されている」と評価した。一方、住民側が採用すべきとした「武村式」は「断層長さのデータが強震観測網整備前の不十分なもので、関係式としての正確性に乏しい」と指摘。入倉・三宅式の有する「経験式のばらつきを考慮していない」との住民側の主張に対しても「科学的合理性は認められない」と一蹴した。
入倉・三宅式を巡っては、各地の運転差し止めに関する係争で争点化している。入倉・三宅式がSsの過小評価につながるとの主張を展開する島崎邦彦・元規制委員は4月、2014年5月に福井地裁で運転差し止め判決を受け、現在、名古屋高裁金沢支部で続く関電大飯発電所3、4号機の控訴審の口頭弁論に原告側証人として出廷した。
それだけに、今回の決定で住民側の主張をことごとく退け、入倉・三宅式の合理性をより明確化させた判断の意味合いは大きい。各地の係争の進展を見据え、一定のくぎを刺す内容とも解釈できる。
(電気新聞2017年6月14日付1面)