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4.福島第一原子力発電所事故以降の取組み

東日本大震災に対する緊急安全対応

2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、東京電力福島第一原子力発電所では全交流電源が喪失し冷却機能が失われ燃料棒の破損や放射性物質を放出する重大な事故が発生した。
この事故を踏まえ、経済産業大臣から緊急安全対策の実施指示が出され、津波の影響により全交流電源、原子炉及び使用済燃料ピットの冷却機能が喪失した場合でも原子力災害を防止するため、九州電力では次の緊急安全対策を実施した。

高圧発電機車の配備

中央制御室の監視機能維持などのため、高圧発電機車及びケーブルを配備した。

給水源の確保

タービン動補助給水ポンプによる冷却を継続するため、ほかの水源から水の補給を行う仮設ポンプとホースを配備した。

使用済燃料ピットの冷却機能確保

使用済燃料ピットの冷却を行うために、水を補給できる仮設ポンプとホースを配備した。

これらの緊急安全対策については、それぞれの対策ごとに手順書を策定し、あわせて訓練を実施した。このほか、緊急時対応のための機器及び設備の点検、全交流電源喪失時の運転操作手順の充実及び訓練、重要機器エリアの水密性向上対策を実施した。
また、更なる安全性向上の対策として、移動式大容量発電機の配備、海水ポンプなどの予備品確保、重要機器エリアの防水対策、水源の信頼性向上対策の4項目を進めていくこととした。
これらの緊急安全対策の実施状況は経済産業大臣に報告を行い、緊急安全対策は適切に実施されているものと判断された。このほか、早期に外部電源からの供給を確保し、更なる信頼性向上を図るため、移動用機器などの仮設備を活用した外部電源復旧訓練を自主的に実施した。
なお、東日本大震災による被災地へ物資・資機材の提供、電力応援融通を行い、また復旧要員を派遣するなど、九州電力としてできる限りの支援をおこなった。

新規制基準施行後の安全性向上への取組み

新規制基準では、地震や津波など共通の要因によって、原子力発電所の安全機能が一斉に失われることを防止するために、耐震・耐津波性能や電源の信頼性、冷却設備の性能などの設計基準が強化されるとともに、火山・竜巻等の自然現象に対する考慮なども必要となった。また、設計の想定を超える事態にも対応できるよう、重大事故対策などが求められた。このため、川内原子力発電所1、2号機、玄海原子力発電所3、4号機は、新規制基準に基づき、再稼働にあたって、以下の対策を実施した。

多様な安全対策
  • 異常の発生を防止するため、発電所内設備の耐震補強、建屋への浸水を防ぐ水密扉設置、発電所周辺での森林火災延焼を防止する防火帯設置等を実施。
  • 異常の拡大を防止するため、本設の電源が使用できない場合に備えた、大容量空冷式発電機、高圧発電機車を配備。
  • 燃料の損傷を防止するため、水を供給する本設のポンプが使用できない場合に備えた、移動式大容量ポンプ車、可搬型ディーゼル注入ポンプを配備。
  • 格納容器で水素が発生した場合、爆発による破損を防止するため、静的触媒式水素再結合装置及び電気式水素燃焼装置を設置。
  • 放射性物質の放出及び拡散を抑制するため、格納容器の破損個所に水を直接噴射する放水砲、前面海域で使用する水中カーテンを配備。
重大事故に備えた運用体制の充実
  • 対応要員として、勤務時間外や休日・夜間を含め1年を通じ速やかに対応できるよう、一班52名の対応体制を常時整備。
  • 対応要員については、重大事故時に迅速かつ確実に対応できるように、運転シミュレータを使用した緊急時の運転操作や夜間の訓練など、様々な訓練を繰り返し、技能や経験を蓄積している。

更なる安全性向上への取組み

新規制基準下での再稼働後においても、更なる安全性向上への取組みをおこなっている。

特定重大事故等対処施設(特重施設)

原子炉補助建屋等への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムにより、原子炉を冷却する機能が喪失し炉心が著しく損傷した場合に備えて、原子炉格納容器の破損を防止するための機能を有する施設。特重施設は、法令で設置期限が定められており、期限内に設置出来ない場合は、プラントを停止する必要がある。当社は、効率的に工事を行うことを目的として、工事計画認可申請の手続きを「原子炉補助建屋等に設置する設備」、「新たに設置する建屋等」、「新たに設置する設備等」の3つに分けて行い、認可を受けたものから順次工事を進めるなど、早期完成に向けた取組みを実施してきた。
しかし、川内原子力発電所については、設置期限(注1)内に完成できない見通しとなったため、1号機は2020年3月16日、2号機は同年5月20日から発電を停止し、定期検査を実施するとともに、特重施設の設置工事を進めてきた。その後、早期の完成を目指し、設置工事工程の合理化を進めた結果、計画よりも早く特重施設の運用を開始し、1ヶ月前倒しで発電を再開し、1号機は2020年12月15日、2号機は2021年1月22日に通常運転に復帰した。
また、玄海原子力発電所については、3号機は2022年12月5日に、4号機は2023年2月2日に、国による最終の検査等が終了し、当該施設が完成した。なお、3号機は2022年1月21日、4号機は2022年9月12日より、発電を停止し定期検査を実施していたが、それぞれ2023年1月10日、2023年3月8日に通常運転に復帰した。

(注1)川内1号機:2020年3月17日 川内2号機:2020年5月21日

玄海3号機:2022年8月24日 玄海4号機:2022年9月13日

常設直流電源

1系統目の直流電源として、常設設備である蓄電池(安全防護系用及び重大事故等対処用)を設置するとともに、2系統目の直流電源設備として、可搬設備である直流電源用発電機や可搬型直流変換器を配備している。これに加え、もう1系統の特に高い信頼性を有する蓄電池(3系統目)を設置することが、新規制基準において要求されている。
川内原子力発電所1、2号機は2020年度に、玄海原子力発電所3、4号機は2022年度に、設置を完了した。

緊急時対策棟

玄海原子力発電所では、重大事故等が発生した場合の指揮所として、新規制基準に適合した代替緊急時対策所を設置し、運用している。現状、原子力防災訓練で代替緊急時対策所を実際に活用しており、問題はないが、会議室や対策要員の休憩スペースの拡充など、支援機能を充実させた緊急時対策棟を新たに設置することとしている。
川内原子力発電所においては、2021年11月に緊急時対策棟(指揮所)の運用を開始するとともに、当初運用していた「代替緊急時対策所」を要員の休憩所として活用するため、「緊急時対策棟(指揮所)」と連絡通路により接続する工事を進め、2022年9月に工事を完了し一体的運用を開始した。
玄海原子力発電所については、2021年4月に設計及び工事計画認可を受領し、設置工事を実施中である。

リスクマネジメント

既に実施した安全性向上対策にとどまることなく、原子力発電所の安全性を向上していくため、リスクマネジメントとして現場の小さな気づきを改善につなげる「改善措置活動(CAP)」や原子力発電所のパフォーマンスの劣化を検知し改善を図る「パフォーマンス監視(PI)」、また、リスク情報を活用した「リスクモニタ」によるプラント管理、「確率論的リスク評価(PRA)」や「安全裕度評価(ストレステスト)」によりプラントの設備や運用において強化すべき点を特定し、有効な対策をとっていく取組みをおこなっている。そのための枠組みとして、「リスク情報を活用した意思決定(RIDM)」プロセスを、原子力発電所のマネジメントに導入し、運用している。

安全性向上評価

自主的かつ継続的に原子炉施設の安全性・信頼性を向上させることを目的に、国内外の運転経験情報や地震、津波等に係る新知見情報等、各種新知見を広く情報収集し、安全性向上に資すると判断されるものをとりまとめるとともに、保安活動の実施状況、確率論的リスク評価、安全裕度評価等から安全性向上措置を抽出し、ハード面及びソフト面の更なる強化・充実に向けた取組みをおこなっており、その結果を安全性向上評価届出書等により公表している。

第3者による評価
原子力に係る安全性・信頼性向上委員会

「原子力の業務運営に係る点検・助言委員会」及び同委員会傘下の「原子力安全性向上分科会」において、社外有識者より、更なる安全性向上に向けた自主的・継続的取組みへのご意見を頂いた。
同委員会及び分科会は、2020年3月に活動を終了したが、2020年4月に「原子力に係る安全性・信頼性向上委員会」を設置し、引き続き、当社における原子力の安全に関する取組みについて、第三者的な視点から評価・提言を受けている。

ピアレビュー

世界原子力発電事業者協会(WANO)(注2)及び原子力安全推進協会(JANSI)(注3)の原子力の専門家で構成されたレビューチームによるピアレビューを4年ごとに受け、提言や気づき事項等を踏まえ、安全性向上に取り組んでいる。

(注2):旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故を教訓に、1989年に設立された自主規制組織

(注3):福島第一事故の反省に立ち、二度とこのような事故を起こしてはならないという国内原子力産業界の総意に基づき、事業者から独立して強力に原子力安全を牽引する組織として、2012年に発足

地震、火山活動への取組み

地震観測体制強化

当社は、川内原子力発電所周辺において、1997年度から自主的に地震計を設置し地震活動状況を把握していたが、更なる安全性・信頼性の向上に向けた取組みとして、川内原子力発電所周辺の地震活動状況をより詳細に把握するため、2017年度に地震観測体制を強化し、2018年度から地震観測を開始した。また、玄海原子力発電所周辺においても、2018年度に地震観測体制を強化し、2019年度から地震観測を開始した。
観測結果については、川内原子力発電所周辺は2019年度から、玄海原子力発電所周辺は2020年度から年1回の頻度で公表しており、両原子力発電所の安全性に影響を及ぼすような地震活動は認められないことを確認している。

火山活動の定期的なモニタリング

当社は、原子力発電所の運用期間中に、九州内のカルデラ火山において破局的噴火が発生する可能性が十分小さいと評価している。また、破局的噴火の可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的に、2015年より九州の5つのカルデラ火山を対象にモニタリングを行い、評価をおこなった時点からカルデラ火山の活動状況に変化がないことを確認している。モニタリングでは、既存観測網等による地殻変動及び地震活動の観測データ、公的機関による発表情報等を収集・分析し、第三者(火山専門家等)の助言を得た上でカルデラ火山の活動状況を定期的に評価し、その評価結果を原子力規制委員会に報告している。

原子力防災対策

原子力防災訓練

原子力発電所では、周辺に放射線の影響を及ぼす原子力災害が起こらないように万全の安全対策を講じているが、万が一の災害に迅速に対応するため、原子力災害対策特別措置法や災害対策基本法に従い、国、自治体、事業者それぞれが防災計画を定め、平常時から、緊急時対応の習熟や災害のための体制の充実に努めている。
当社は、佐賀県、鹿児島県等の原子力防災訓練への参加や、原子力事業者防災業務計画に基づく社内訓練を行う中で、本店及び発電所内に緊急時対策本部を設置し、原子力規制庁と連携のもと、緊急時モニタリングや通報連絡、要支援者(避難にあたり補助が必要なかた)の避難支援等の対応が適切に行えることを確認しており、今後も実効性の更なる向上に継続して取組むこととしている。

玄海・川内地域における原子力防災支援

原子力災害が発生した場合、発電所周辺に居住されている住民のみなさまの避難については、原子力事業者として最大限の支援を行うこととしており、要支援者の避難支援として福祉車両やバスの確保のほか、避難退域時検査への要員及び資機材の支援、保存食等の生活物資の備蓄支援などの取組みをおこなっている。このうち、福祉車両については、当社事業所をはじめ、川内原子力発電所から30km圏内の自治体等に、2018年3月末までに51台を配備した。また、玄海地域についても、当社事業所をはじめ、玄海原子力発電所から30km圏内の自治体等に、2019年2月末までに64台を配備し、当社社員も要支援者の避難支援の実働を担うなど、自治体が策定している避難計画の実効性向上に資する支援に取組んでいる。

原子力災害発生時における原子力事業者間の相互協力

原子力災害対策特別措置法第14条(他の原子力事業所への協力)の精神に基づき、原子力事業者12社間(9電力、日本原電、電源開発、日本原燃)にて、原子力災害の拡大防止及び復旧対策等の実施に必要な協力を円滑に行うことを目的として、2000年6月に「原子力災害時における原子力事業者間協力協定(以下、「12社間協定」という。)」を締結し、原子力事業者全体で原子力災害が発生した事業者を支援する体制を構築している。
その後、福島第一事故における支援実績等を踏まえ、協力要員の派遣や、提供する資機材の数量を拡充するため、2012年9月と2014年10月に12社間協定の見直しをおこなっている。
更に、12社間協定の実効性をより一層高めるものとして、2016年8月に関西電力、中国電力、四国電力、北陸電力、当社の5社にて、「原子力事業における相互協力に関する協定書」を締結し、5社の地理的近接性を活かし、万が一、原子力災害が発生した場合の協力要員派遣や資機材提供など、12社間協定への追加協力を相互に行う体制を構築している。

新検査制度

国は、2016年1月に国際原子力機関(IAEA)から原子炉等規制法に基づく検査制度に対して見直すべき課題について勧告を受けたため、電力会社の安全確保に対する一義的責任を明確化する観点から、それまで国が実施してきた施設定期検査、使用前検査、燃料体検査、定期安全管理審査、溶接安全管理審査などを廃止し、事業者自らが技術基準への適合性を確認する検査(事業者検査)を行うとともに、国がそれらの実施状況を確認する原子力規制検査を2020年に導入した。

①定期事業者検査

電力会社が原子力発電所の設備について、定期的に検査を行い、技術基準への適合性を確認する。

②使用前事業者検査

電力会社が、原子力発電所の設備の設置又は変更の工事を実施した際に、その設備を使用する前に検査を行い、技術基準への適合性を確認する。

③原子力規制検査

国が、電力会社が実施する事業者検査、保安活動、継続的改善の取組みなどの実施状況を監視、評価する。

廃止措置

玄海原子力発電所1号機については、九州初の原子力発電所として、1975年10月に営業運転を開始して以来、39年にもわたる長い期間、九州地域の電力の安定供給及び電気料金の低廉化、さらには九州経済の発展に大きな役割を果たしてきた。
2016年7月に運転期間満了を迎えることから、運転延長申請の可能性について検討してきたが、新規制基準への適合のために大規模な追加対策工事が必要となり、工事に要する期間を踏まえた残存運転期間における追加投資額の回収の見通し、今後の需要動向から見た供給力確保の見通し等を総合的に勘案した結果、運転延長申請を断念し、2015年3月18日に運転終了を決定、4月27日を廃止日とする届出を国におこなった。12月22日、放射性物質による汚染の除去や解体等の廃止措置を安全に行うための計画を取りまとめた廃止措置計画認可申請書を、原子炉等規制法に基づき、原子力規制委員会へ提出した。
2017年4月19日、原子力規制委員会から廃止措置計画の認可を受け、7月12日、佐賀県及び玄海町より「原子力発電所の安全確保に関する協定書」に基づく1号機の廃止措置に係る事前了解を頂き、7月13日、廃止措置作業を開始した。
玄海原子力発電所2号機については、2021年3月に運転期間満了を迎えることから、運転延長申請の可能性について検討してきたが、新規制基準に適合させるための特定重大事故等対処施設の設置等にあたって十分なスペースの確保が困難という固有の技術的制約があり、出力規模や再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案し、運転延長申請を断念し、2019年2月13日に運転終了を決定、4月9日を廃止日とする届出を国におこなった。9月3日、廃止措置計画認可申請書を原子力規制委員会へ提出した。併せて、1・2号機の廃止措置を同時並行で行う利点を活かし、より安全かつ着実に進められるよう、先行する1号機の工程を2号機と合わせたものに見直し、1号機の廃止措置計画変更認可申請書を同委員会へ提出した。
2020年3月18日、原子力規制委員会から認可を受け、6月8日、佐賀県及び玄海町より「原子力発電所の安全確保に関する協定書」に基づく1・2号機の廃止措置に係る事前了解を頂き、6月29日、2号機の廃止措置作業を開始した。
2022年11月7日から、原子炉等規制法に基づき、玄海原子力発電所1号機第5回及び2号機第2回の定期事業者検査(廃止措置段階)を、約6か月の予定で実施中である。
また、2022年12月28日に、玄海原子力発電所1、2号機について、設備の運用変更に係る廃止措置計画変更認可申請を原子力規制委員会へおこなった。

川内原子力発電所1、2号機の運転期間延長認可に係る取組み

カーボンニュートラルの実現と電力の安定供給を両立するため、発電時にCO2を排出しない安定電源である原子力発電について、安全性の確保を大前提に最大限活用することとしている。
運転開始後40年(注1)を超過して原子力発電所を運転する場合は、特別点検(注2)の結果等を添付して、原子力規制委員会に運転期間延長認可申請を行い、認可を受ける必要がある。
川内原子力発電所1、2号機について、原子炉等規制法に基づく運転期間延長認可申請に必要な特別点検を1号機は2021年10月18日から、2号機は2022年2月21日から進めてきた。
特別点検を実施した結果、原子炉容器や原子炉格納容器などの健全性を確認するとともに、特別点検の結果を含めた劣化状況評価を行い、それを踏まえた施設管理方針を策定した。
これにより運転開始後60年時点においても問題ないことを確認したことから、2022年10月22日に、20年間の運転期間延長認可申請書及び原子炉施設保安規定変更認可申請書を原子力規制委員会へ提出した。

  • (注1)40年運転期間満了日
  • 川内原子力発電所1号機:2024年7月3日
  • 川内原子力発電所2号機:2025年11月27日
(注2)特別点検:運転に伴い生じた原子炉容器や原子炉格納容器などの対象設備の劣化の状況を把握するため、運転開始35年以降に採取したデータを踏まえて行う詳細な確認、評価