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3.主な取組み(2011年~2020年)

2011年~2020年の技術開発の中から、次の3つのカテゴリーにおける主な取組み概要について紹介する。

1 安定供給やコスト低減のための技術開発

  • 電力設備(発電、送変電、配電設備)の保全・運用技術の高度化に資する技術開発

2 再生可能エネルギーや環境保全に関する技術開発

  • 再生可能エネルギー大量連系時における系統安定性、低炭素化や環境保全に関する技術開発

3 持続的なコミュニティ共創に向けた技術開発

  • 地域社会の課題解決のための事業・サービス創出に資する技術開発 など

安定供給やコスト低減のための技術開発

1次系最適水処理技術に関する研究

加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)の被ばくに寄与する放射性コバルト(58Co)は1次系冷却系統の構成材であるTT690(60%Ni、30%Cr、10%Fe)から溶出したニッケル(Ni)が炉心で核反応し生成する。そのため、PWRユニットでは、運転中に亜鉛(Zn)を連続注入し、Ni溶出や58Co沈着を抑制する機能を持つZn酸化皮膜を形成させている。

玄海1、2号機は他プラントと比較して放射能量が少ないことがわかっている。原因として、Zn注入が適用される前に大型機器更新工事が実施されており、機器の初期腐食によって1次冷却系統へ鉄が供給され、その後にZn注入を実施した影響が考えられた。

2016年から、この現象をラボ試験によって検証した結果、鉄注入によってNi溶出量が低減することを確認し、さらに、すでにZn注入を実施しているプラントに鉄供給を実施した場合も同様の効果があることを確認できた。これによりNiの核反応によって生成される58Co量を減少させ、被ばく低減に寄与できたものと考えられる。

今後、大型機器更新工事が予定されている場合は、その前後のZn注入管理の最適化を図ることで、本試験と同様な効果が得られることが期待される。

雷エネルギーが電力設備に与える影響等に関する研究

落雷による電力設備への被害については、雷害対策の進展により減少傾向にあるが、効率的な対策及び設備保全を行うためには、多数の雷観測データによる特性の解明が必要である。このような雷特性の解明にむけて、九州地域内での雷電流・電界・磁界の観測を継続して実施し、落雷時の電界観測波形から雷エネルギー(雷電荷量)を算出する手法を開発した。

これにより、従来把握できなかった雷エネルギーを、遠方からの雷電界測定で把握できるようになり、落雷による電力設備(架空地線等)の損傷箇所の推定や、より実態に応じた雷害対策の検討等が可能となった。また、通信事業者など広範囲に設備を所有するインフラ事業者や、雷被害のリスクが大きい風力発電事業者に対しても、避雷設備等の劣化に影響する雷エネルギーを把握することは有用である。2018年からは、落雷エネルギーをリアルタイムに算出できるシステムの構築に向けて研究を進めている。

スマートグリッド実証試験

太陽光発電など出力が不安定な再生可能エネルギーが大量に普及した場合においても、高品質・高信頼かつ効率的な電力供給を維持できるよう様々な取組みをおこなっているが、その一環として、スマートグリッド実証試験設備を佐賀県玄海町と鹿児島県薩摩川内市に設置し、2013年から実証試験を実施した。実証試験は、電力供給側(需給面、電圧面)及び需要側(お客さま面)のつのテーマで実施し、主に以下のような結果が得られた。

①需給面:日射量実績値、予測値から、九州本土全体の太陽光出力を推定する手法を確立した他、系統用蓄電池の基本性能を把握し、充放電制御方法を確立

②電圧面:電圧を適正に維持するための効果的な制御機器の配置の考え方等を検討し、太陽光導入量に応じた電圧対策を整理

③お客さま面:電力使用状況の「見える化」や電力使用抑制量に応じて対価を支払う「料金インセンティブ」による電力使用抑制効果の検証を実施し、インセンティブ単価を変動させても抑制効果への影響はほとんどないこと等を確認

系統蓄電池システムに関する研究(豊前、壱岐など離島)

太陽光発電の急速な拡大に伴い、電力需要が低い時期には出力制御が実施されている。この出力制御量削減を目的に、福岡県豊前市に大容量蓄電システム(容量300MWh、NAS電池)を2016年に導入し、揚水機と同等の機能性を活かした需給バランス改善のための運用方法確立を目指して実証試験を実施した。1日あたり最大300MWh相当の出力制御を回避するための充放電運転が計画通りに実施できることや、無効電力出力を活用した系統電圧制御が可能であることなどが確認でき、本システムの有効性が実証された。

また、離島系統においては、出力変動が大きい再エネが連系されると、系統周波数変動が大きくなり系統の安定性に影響を与えることから、蓄電池(リチウムイオン電池)による周波数変動抑制の実証試験を2013年から離島(壱岐、対馬、種子島、奄美大島)で実施した。周波数変動抑制の効果が確認された他、出力変動の平滑化による再エネ導入拡大の可能性を導くことができた。

V2G実証

今後の普及が見込まれる電気自動車(以下、EV)を電力の需給バランスの調整に活用するため、EVに蓄積された電力を電力系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)技術の獲得に2018年から取り組んでいる。

具体的には、総合研究所のほか九州域内に計6箇所のEVステーション(計16台)を構築し、2019年は、複数箇所のEVを統括管理・制御するEV充放電システムを開発し、外部システムからの制御指示に従って複数のEVステーションへ指令値の配分ができることや、制御指示に対して1分以内に応動可能であること等を検証した。

2020年は、V2G実証で構築した制御システムを拡張し、定置型蓄電池やヒートポンプ給湯器などの多様な分散型エネルギーリソースと連携したVPP実証に取り組んだ。

再生可能エネルギーや環境保全に関する技術開発

STATCOMの開発とフリッカ抑制効果検証

太陽光発電の導入拡大に伴い、新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)を備えたパワコン(PCS)からの無効電力に起因した配電線電圧変動に伴う電灯のちらつき(フリッカ)が発生している。

当社とグループ会社の株式会社キューヘンとの共同研究の成果に基づきキューヘンで開発したSTATCOM(自励式静止型無効電力補償装置)は、SVCよりも高速応答という特長がある。そこで、フリッカ対策の1つとして、2017年から実際の配電系統にて実証試験を行い、電圧変動を約70%抑制するなど良好な導入効果が確認できた。

褐炭高度利用研究、バイオマス混合新燃料の開発

石炭火力発電所で使用する高品位な瀝青炭などは、新興国のエネルギー需要拡大とともに、利用可能量の急激な減少が懸念されたことから、豪州ビクトリア州に豊富に賦存している低品位な褐炭を改質し、自然発火性を抑え、高品位炭と同様な取扱いができるよう研究を行い、技術的に製造できることを確認した。

近年、CO2排出量削減に向けた国際的な動きにより、国内でも石炭火力への風当たりが強くなっていることから、エネルギーに求められる3E+S(エネルギー安定供給、環境適合性、経済効率性、安全性)を踏まえ、これまでの褐炭改質技術を活用し、2018年10月から2021年9月まで、国の支援の下、褐炭と木質バイオマスを原料としたバイオマス混合新燃料の開発に取り組んだ。

新燃料の製造技術は確立できたものの、豪州政策の変更を含む様々な情勢の変化により原料確保等の課題が発生した。将来の事業環境の変化によっては活用できる可能性もあるため、今後の国内外の石炭政策の動向を注視している。

海域環境修復の実用化研究(石炭灰を活用した藻場中間育成プレートを開発)

海藻の群落である藻場には、魚介類を育む機能、CO2を固定する機能、及び水質を浄化する機能があることが知られている。しかしながら、地球温暖化を始めとした様々な理由で、藻場が減少する「磯焼け現象」が問題となっている。

当社は、魚介類のすみかや水質浄化などの重要な役割を果たす藻場の造成を通して、減少した藻場の修復に関する研究を2012年まで実施した。本研究では海藻の苗床として、当社の火力発電所から発生する石炭灰を利用した中間育成プレートを開発するとともに、藻場造成システムの開発をおこなった。その結果、造成した藻場で海藻が順調に生育し、周囲へも拡大して、魚介類が集まり生息していることを確認した。

開発した中間育成プレートは、九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ(K-RIP)から、「環境に配慮した性能を保有し、自然再生事業に適合する製品」として環境性能検証済証を付与されている。

PFBC灰を用いたモルタル補修材の開発

苅田火力発電所から発生する加圧流動床石炭灰(以下、PFBC灰)は、一般の火力発電所から産出される石炭灰と異なり、酸化カルシウム、三酸化硫黄を多く含み、水に対する活性度が高く自硬性を有する特徴がある。また、二酸化ケイ素が少ないなどコンクリート用の品質規格を満足せず一般生コンクリート分野では適用できない。このため、これまではセメント原料として産業廃棄物処理をしていた。しかし、セメント需要の低迷や処理価格の高騰もあり、灰処理費の低減を図るため、PFBC灰の有効活用方法の確立を目指して、下水道施設や温泉地帯等にあるコンクリート構造物の酸性劣化対策などに資するモルタル補修材開発をおこなった。開発したモルタル補修材は、従来の補修材と比較して直接工事費で1040%のコスト低減が可能となる他、製造時にCO2を大量発生させるセメント等の使用量を大幅に低減できる環境にやさしい製品となっており、2012年から社内工事において適用を開始した。

持続可能なコミュニティ共創に向けた技術開発

ポータブル電源装置の開発と非常用電源としての活用

当社は、リチウムイオン電池を搭載し、非常用電源としても活用可能な可搬型ポータブル電源装置を2012年に開発した。当社が保有する電池監視制御技術を活用し開発したリチウムイオン電池監視制御ユニット(BMCPU:Battery Management Central Processing Unit)を搭載することにより、安全かつ低コストな装置となっている。

本装置は、商用電源からの充電だけでなく、太陽光による充電にも対応しているため、災害により停電した被災地においても繰り返し使用することができるといった特徴を有する。このような特徴を活かし、2013年にフィリピンに上陸した台風30号の際には、日本赤十字社国際医療救援部が現地での医療活動において本装置を使用した他、2016年の熊本地震や博多駅前陥没事故などにおいても、停電時の非常用電源として活用されている。更に、東日本大震災後の原子力発電所再稼働対応においては、当社だけでなく他電力でも本装置が非常用電源として採用された。

完全自立型水洗式トイレ「トワイレ」の開発

グループ会社のニシム電子工業株式会社(以下、ニシム)は、水道・電気などのインフラが不要でかつ汚泥が発生しない完全自立型水洗式トイレ「TOWAILET:トワイレ」を開発、2018年から販売を開始した。トワイレは、水道・電気が寸断した災害の被災地でも平常時と同じように衛生的に使えるトイレを目指し、ニシムが保有する独自の浄化処理やIoTなどの技術と、当社が保有する太陽光発電+蓄電池を利用した独立電源の技術を組み合わせ開発したものであり、以下のような特徴がある。

・環境にやさしく、ランニングコストも安価

・非常災害時などのインフラが遮断された状態でも運用可能

・遠隔地でも稼働状態等が確認でき、運用管理が容易

2017年の九州北部豪雨災害や2018年の西日本豪雨災害の際には、被災地に貸し出しを行い、多くの方にご利用頂き、快適な水洗式トイレとして好評を得られた。