1.火力発電の高効率化と高経年化対策
火力電源の開発と高経年火力発電所の廃止
九州電力は地球温暖化への対応およびエネルギー有効利用の観点から、火力発電の高効率化を推進するとともに、長期的に安定した設備の形成・維持を図るため、設備高経年化への対応を着実に実施してきた。
2001~2020年度の20年間においては、石炭火力では、世界最大規模の加圧流動床複合発電プラント(苅田発電所新1号機)をはじめ、高効率な超々臨界圧コンベンショナル方式の大容量石炭火力(苓北発電所2号機、松浦発電所2号機)が営業運転を開始し、LNGコンバインド火力では、近年の技術開発により相対的に効率が低くなった新大分発電所1号系列ガスタービンの高効率ガスタービンへのリプレース、及び同発電所3号系列(第4軸)が営業運転を開始した。また、今後の最大電力の減少などを考慮し、高経年化が進んでいる火力発電所(12基)を廃止した。
苅田発電所新1号機の運転開始
苅田発電所新1号機は、高効率で環境にやさしい技術である加圧流動床複合発電方式(Pressurized Fluidized Bed Combustion:PFBC)を採用し、2001年7月に営業運転を開始した。その出力は36万kWとPFBCとしては世界最大のユニットである。
加圧流動床複合発電方式は、圧力容器内に収納した流動床ボイラーの発生蒸気で蒸気タービンにより発電するとともに、ボイラーの排ガスを利用したガスタービン発電を組み合わせたコンバインド発電方式である。このため、高い発電効率を得ることができ、またガスタービン空気圧縮機を使用することで大型補機が不要となり所内動力が低減されるため、従来型の微粉炭焚発電に比べ送電端効率は高くなる。
さらに、燃料を加圧下で燃焼させるため、ボイラーを小型化できるほか、ボイラー内部で硫黄酸化物を除去する炉内脱硫方式により、排煙脱硫装置が不要となることなどから、発電所をコンパクトにつくることができる。
また、建設コスト低減を図るため、旧1号機(1988年廃止)の本館建屋、取放水設備、煙突などの再活用を行うほか、建設工法においてもボイラーを事前に工場内で圧力容器に組み込み、バージ船で現地に輸送して据え付ける方式を採用することで、現地作業の大幅な省力化を図った。
苓北発電所2号機の運転開始
苓北発電所は海外炭を燃料とする大容量石炭専焼火力発電所として計画され、2003年6月に2号機(出力70万kW)が運転開始し、1号機(出力70万kW)と合わせた発電所総出力140万kWは九州電力の石炭火力発電所としては当時最大となった。
2号機は、1号機の超臨界圧方式からさらに、主蒸気および再熱蒸気温度を当時世界最高クラスの593度に上げた超々臨界圧方式を採用することにより、一層の熱効率向上を図った。
また、2号機の建設工事においては、自社据付け方式を採用し、建設コストの低減と技術継承を図ったほか、2号機ボイラー設備においては九州電力初の試みとして、ボイラーゾーンモジュール工法を採用した。この工法はボイラーを18基のモジュールに分割し、工場で製作されたモジュールを大型バージ船で現地に輸送し、ボイラー全体を組み立てていくものである。この工法の採用により、建設工期の短縮、資材置場の省スペース化および高所作業の軽減を図ることができた。
新大分発電所1号系列ガスタービンリプレース
新大分発電所1号系列は、熱効率が高く、負荷追従性に優れた九州電力初のLNG(液化天然ガス)を燃料とするコンバインドサイクル発電方式(複合発電方式)の発電所として1991年に総出力69万kW(11.5万kW×6軸)で運転を開始して以来、中間負荷火力機の主力として電力の安定供給に貢献してきた。
しかし、ガスタービンの高効率化などの技術開発が急速に進んでいたことから、地球環境問題への対応およびエネルギー有効利用を考慮し、熱効率をさらに高め、CO2排出量、燃料消費量を抑制することを目的として、ガスタービンに限定したリプレース(更新)を2009年7月より1軸毎に順次行い、2018年1月に全6軸の工事を完了した。なお、発電所全体のリプレースではなく、ガスタービンのみのリプレースによって熱効率の向上を図るのは事業用の火力発電設備では初めての試みであった。
リプレース機の特徴としては、熱効率向上のため、ガスタービン入口ガス温度を既設機の1100度級から同出力クラスの最新機と同程度の1200度級とし、排熱回収ボイラー、蒸気タービンなどの既設流用設備との適合を図るために、空気圧縮機側の高圧タービン(4580rpm)と発電機側の低圧タービンに(3600rpm)に分かれた2軸型ガスタービンを採用した。リプレース前後で出力は変わらないが、ガスタービン入口ガス温度の向上により熱効率は43.0%から46.3%へと3ポイント程度向上した。
なお、さらなる供給力増加のため、増出力試験を行い安全性及び環境への影響について問題ないことを確認し、2020年4月に1号系列の総出力を72万kW(12.0万kW×6軸)へ変更した。
新大分発電所3号系列(第4軸)の営業運転開始
新大分発電所3号系列(第4軸)は、最新鋭で高効率のLNGコンバインドサイクル発電方式(複合発電方式)を採用し、2016年6月に営業運転を開始した。
3号系列(第4軸)は、ガスタービン入口ガス温度を同発電所既設設備(1~3号系列)の1100~1400度級から1600度級へ向上させることで、熱効率は当時の世界最高レベルの約60%(低位発熱量)を誇る。
また、3号系列(第4軸)の建設工事においては、苓北発電所2号機と同様に自社据え付け工事方式を採用し、建設コストの低減と技術継承を図った。その他の取組みとして、メンテナンス費や契約条件を総合評価する事前競争入札による主機メーカーの決定、九州電力で初めてとなる金属製の屋根(従来はコンクリート製)を本館のタービン建屋に採用するなどにより、建設コスト低減を図った。
なお、3号系列(第4軸)の出力の当初計画値は48万kWであったが、他社先行同型機の蒸気タービン不具合に対する暫定対策のため、出力45.94万kWで営業運転を開始した。その後、恒久対策として蒸気タービンを取替え、2018年7月に出力を当初計画値である48万kWへ変更した。また、さらなる供給力増加のため、増出力試験を行い問題ないことを確認し、2022年1月に50万kWへ変更した。
松浦発電所2号機の営業運転開始
松浦発電所は海外炭を燃料とする大容量石炭専焼火力発電所として計画され、2019年12月に2号機(出力:100万kW)が運転開始し、1号機(出力70万kW)と合わせた発電所総出力は170万kWとなり、九州電力の石炭火力発電所として苓北発電所(総出力140万kW)を超え最大となった。
2号機については、1998年1月に環境調査を開始し、2001年3月から工事に着工したものの、その後、電力需要の伸びが想定よりも緩やかであったため、2004年6月に工事を中断していた。以後、2016年4月の電力小売全面自由化を見据え、競争力と安定性を備えた電源確保のため、2016年1月に工事を再開し、2019年12月の運転開始に至った。
2号機は、蒸気条件が商用機最高クラスの超々臨界圧方式を採用することで、石炭火力として世界最高レベルの熱効率(低位発熱量)約46%を誇り、CO2排出量の低減を図っている。また、最低負荷が15万kWで負荷運用幅が85万kWと高い出力調整力があり、再生可能エネルギーの出力変動にも柔軟に対応できる設備となっている。
なお、2号機の建設工事においては、信頼性の高い補機の予備機台数削減や、ボイラーの高さを低くすることによる鋼材の使用量や基礎・土木工事量の低減などの細かな工夫を積み重ねることで、設備の信頼性を担保しながらも、建設コスト低減を図った。
火力発電所の計画停止、廃止
松浦発電所2号機のような最新鋭石炭火力発電所を開発する一方で、今後の最大電力の減少などを考慮し、高経年化が進んでいる火力発電所を廃止した。近年では、苅田発電所新2号機、相浦発電所1、2号機、豊前発電所1号機、新小倉発電所4号機、川内発電所1、2号機の計7基を廃止した。
また、豊前発電所2号機を2018年8月から計画停止とた。なお、苅田発電所新1号機についても2021年4月から計画停止としていたが、2021年6月、電力安定供給に万全を期すため計画停止を解除した。
その他の火力発電所についても、将来的な競争環境を踏まえ、今後の需給動向を見極めながら、経営効率化の観点から更なる計画停止や廃止等について検討をおこなっていく。
<近年の廃止火力発電所>
項目 | 苅田新2号 | 相浦1号 | 相浦2号 | 豊前1号 |
出力(kW) | 375,000 | 375,000 | 500,000 | 500,000 |
燃料 | 重原油 | 重原油 | 重原油 | 重原油 |
運転開始 | 1972年4月 | 1973年4月 | 1976年10月 | 1977年12月 |
廃止 | 2017年5月 | 2019年4月 | 2019年4月 | 2019年6月 |
項目 | 新小倉4号 | 川内1号 | 川内2号 |
出力(kW) | 600,000 | 500,000 | 500,000 |
燃料 | LNG | 重原油 | 重原油 |
運転開始 | 1979年6月 | 1974年7月 | 1985年9月 |
廃止 | 2022年3月 | 2022年4月 | 2022年4月 |