企業情報

  • このリンクをシェア
  • ツイート

2010年代のあゆみ

原子力発電所の長期停止と財務

原子力発電所の長期停止及び再稼働 

2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波の影響により、福島第一原子力発電所では、非常用ディーゼル発電機や海水ポンプなどが冠水し、全ての電源を失うとともに冷却機能が失われ、燃料棒の破損や放射性物質を放出する重大な事故が発生した。
この事故により、原子力の安全性に対する社会の信頼が大きく損なわれた結果、事故当時、定期検査中であった玄海2・3号機については検査終了後も運転再開を見送ったほか、2011年5月6日に川内1号機、8月30日に川内2号機、11月28日に玄海1号機、12月22日に玄海4号機がそれぞれ定期検査に入り、当社管内の原子力発電所が全機停止した。
また、2012年9月19日、原子力発電所の安全規制を担う新たな国の機関として、「原子力規制委員会」が発足した。同委員会は、福島第一原子力発電所事故の教訓や海外の規制動向を踏まえ、従来の安全基準(設計基準)の強化と、重大事故(シビアアクシデント)への対策を含めた新たな安全基準「新規制基準」を策定、2013年7月8日に施行した。
当社は、新規制基準への適合性を確認する審査を受けて国から原子炉設置変更許可等の許認可をいただき、すべての使用前検査及び施設定期検査が終了したことから川内1号機が2015年9月10日、国内で最初に通常運転に復帰し、その後、川内2号機(同年11月17日)、玄海3号機(2018年5月16日)及び4号機(同年7月19日)も通常運転に復帰した。

原子力長期停止下での資金調達と財務改善に向けた取組み

原子力発電所の停止が長期化する中、当社は徹底した経営効率化に取り組んだものの、火力燃料費や購入電力料が大幅に増加したことなどから2011年度以降4期連続赤字となった。それに伴い、有利子負債残高は1兆円以上増加し、債券にかかる格付けも低下するなど、当社財務は大きく毀損していった。
そのような中、資金調達においては、原子力発電所の安全対策等にかかる設備投資及び債務償還等のため、多額の外部資金が必要な状況が続いた。一方、当社の資金調達環境は大きく変化し、特に2011年度においては、それまで資金調達の重要な手段であった普通社債については、市場環境の悪化により、発行を見送らざるを得ず、政府系金融機関やメガバンク、地方銀行等からの借入により多額の資金調達を実施した。
その後、電気料金の値上げや川内原子力発電所及び玄海原子力発電所の再稼働等に伴い、当社は2015年度以降黒字を継続し、自己資金は増加した。また、普通社債についても、2012年度以降継続的な発行が可能となっている。しかしながら、原子力発電所の安全対策等の設備投資の高止まりや、それまでの資金調達に伴う債務償還が増加するなど、依然として多額の外部資金調達が必要な状態が継続している。
 2011年度以降現在に至るまで、当社は、普通社債の発行や金融機関からの借入等をベースとしつつも、低コストでの調達や資金調達源の多様化、及び財務体質改善を重視するとともに、株主のみなさまへの配慮を踏まえた資金調達も実施。具体的には、2014月の優先株式発行、2017月の転換社債発行、2019月の優先株式見直し(借換)、202010月のハイブリッド社債発行など、様々な手段で資金調達を実施した。

熊本地震への対応

2016年4月14日21時26分に、益城町で震度7、熊本市他で震度6弱(マグニチュード6.5)の前震が発生し、最大約1万7千戸が停電した。当社は地震発生に伴い、非常災害対策組織を直ちに設置のうえ、九州各県から停電エリアへの応援者派遣、高圧発電機車による応急送電等を行いながら復旧対応を実施し、15日23時00分に高圧配電線への送電を完了した。
しかし、その直後の4月16日1時25分、益城町、西原村で震度7、南阿蘇村他で震度6強(マグニチュード7.3)の本震が発生し、最大で全社の5.9%に相当する約47万7千戸が停電した。送電鉄塔周辺の土砂崩れや鉄塔傾斜等により広範囲に停電が発生したものの、当社社員及び委託・請負先を含め、最大約3,600人を動員して復旧対応を行い、66kV送電線の被害により送電不能となった阿蘇地区を除き、2日後の18日21時50分に高圧配電線への送電を完了した。阿蘇地区については、66kV送電線被害により停電が長期化することが想定されたため、他電力からの応援を含む148台の高圧発電機車による応急送電を実施し、崖崩れや道路の寸断等に伴う立入困難箇所を除き、20日19時10分に高圧配電線への送電を完了した。その後、被害を受けた66kV送電線の仮復旧工事を27日22時00分に完了し、随時、電力系統からの送電に切り替え、4月28日21時36分に高圧発電機車による応急送電を終了した。
当社の設備被害は、送電設備の鉄塔傾斜などが27基、変電設備の220kV母線支持碍子破損、主要変圧器漏油などが10変電所、配電設備の支持物損壊3,152本、電線の断混線864条径間、水力設備のヘッドタンクなどの水路工作物損壊が9発電所など、被害総額は約230億円に上った。

電力システム改革の進展 

東日本大震災による原子力発電所の事故やその後の電力需給のひっ迫を契機として、これまでの電力システムを見直し、様々な事業者の参入や競争の促進、全国レベルでの供給力の活用、お客さまの選択によるスマートな電力消費など、より柔軟なシステムによって電力の低廉かつ安定的な供給を一層進めることへの社会的要請が高まった。
こうした情勢変化を受け、国は2013年4月に「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。本方針では、「安定供給の確保」「電気料金の最大限の抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」を改革の目的とし、この目的の下、①広域系統運用の拡大(電力広域的運営推進機関の設立)、②小売および発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる改革の全体像が示され、各段階で十分な検証を行い、必要な措置を講じながら進めることとなった。

①広域系統運用の拡大
2015年4月に広域機関が設立され、全ての電気事業者(発電事業者、一般送配電事業者、小売電気事業者等)が広域機関の会員になることが義務づけられた。広域機関では、国全体の需給計画や供給計画を取りまとめ、電源の広域的な活用に必要な送電網の整備を進めるとともに、平常時・緊急時の需給調整機能を全国規模で強化して、中長期的な安定供給の実現を図ることとなった。

②小売および発電の全面自由化
2016年4月、一般家庭を含めた全てのお客さまが自由に電力会社を選択できるようになった。これに伴い、旧一般電気事業者の供給義務が撤廃され(ただし、お客さま保護の観点から、小売電気事業所間の適正な競争が確保されるまでの間、旧一般電気事業者に低圧需要に対する規制料金での供給を義務づける経過措置有り)、従来の事業者概念から、発電・送配電・小売の事業類型別に義務などを課す制度に移行した。

③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保
2020年4月、発電・小売事業と送配電事業の兼業を原則禁止とする、送配電部門の法的分離が実施された。当社は、発電会社・小売会社の下に送配電会社を設置する「発電・小売親会社方式」を採用し、発電・小売部門を有する九州電力のもと、送配電部門を「九州電力送配電」として分社化した。

再生可能エネルギーの急速な普及拡大への対応

国は、地球温暖化対策として優れた国産エネルギーである再生可能エネルギーを普及拡大するため、2012年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を開始し、当社管内においては、太陽光を中心として再生可能エネルギー発電設備の導入が急速に進んだ。
そのような中で、壱岐、対馬などの離島については、当社発電設備の出力を抑制しても電力の供給量が需要量を上回り、安定供給を損ねる可能性が出てきたため、当社は2014年7月、接続申込みに対する回答を保留することとした。また、九州本土においても、昼間の揚水運転や九州外への送電などの対策を踏まえて再生可能エネルギーをどこまで受け入れることができるか見極めることが喫緊の課題となったため、2014年9月、接続申込みに対する回答を保留することとした。
その後、国の検証等によって接続可能量が確定し、出力制御に関する運用が見直されたことなどを踏まえ、当社は、再生可能エネルギーの接続申込みについて、2014年12月以降、順次回答を再開した。
また、2016年4月には供給力が需要を上回る場合の対応として、火力やバイオマスなどの出力を抑制する順番等を定めた「優先給電ルール」が国の審議会において整備され、2018年10月、九州本土で初の出力制御を実施した。

信頼向上に向けた取組み

2011年6月に経済産業省主催の県民説明番組において、当社社員が社内及び協力会社等に対して、原子力発電所の発電再開に賛成する意見投稿を要請していたことが判明し、過去のシンポジウム等における同様の働きかけの有無についても調査したところ、国や県主催の公開討論会等計3件においても自主的発言の呼びかけ等がなされていたことが判明した。
当社は、これを受け、同年7月に社外有識者で構成する第三者委員会を設置し、より中立的な立場から詳細な事実関係を調査するとともに再発防止に向けての根本原因の分析等を行うこととし、同年9月に第三者委員会から最終報告書を受領した。
当社は第三者委員会の最終報告書を真摯に受け止め、社長を本部長とする「信頼回復推進本部(同年7月設置)」を推進役として、「企業活動の透明化」、「マネジメント機能や組織風土の改善」及び「コンプライアンスの推進や危機管理体制の再構築」に向けた施策に取り組んだ。

電源多様化の取組み

原子力発電

2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故を教訓とした国の新規制基準を踏まえ、重大事故を起こさないための対策や、万が一の重大事故に対処するための対策の強化を図ってきた結果、2015年9月10日に川内原子力発電所1号機が通常運転に復帰した。その後、川内原子力発電所2号機、玄海原子力発電所3、4号機も順次通常運転に復帰した。
一方で、玄海原子力発電所1号機(55.9万kW)と2号機(55.9万kW)については、出力規模や再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案し、それぞれ2015年4月、2019年4月に廃止した。

火力発電

石炭火力発電については、安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源であることから、高効率化により環境負荷を低減する技術を導入しながら開発を進め、最新鋭技術である超々臨界圧発電(USC)を採用した松浦発電所2号機(100万kW)が2019年12月に運転を開始した。
LNG火力発電については、燃料調達の長期安定性、環境性、運転性能に優れていることから、ミドルおよびピーク対応電源として最新鋭の高効率ガスコンバインドサイクルである新大分発電所3号系列第4軸が2016年6月に運転を開始した。

水力発電

揚水発電については、負荷追従性に優れ、起動停止が迅速に行えることから、ピーク時および緊急時対応用の電源として開発し、小丸川発電所2号機(30万kW)が2011年7月に運転を開始した。

再生可能エネルギー

九電グループは低炭素で持続可能な社会の実現に向けて、九州域内に限らず、国内他地域・海外でもグループ大で開発に取り組んでいる。
主な取組みとして、国内最大級の地熱バイナリー発電所や風力発電所の開発、遊休地を活用したメガソーラー発電所や鶏糞、燃えるゴミ、木材等を燃料としたバイオマス発電所の開発を積極的に推進している。

「九電グループ経営ビジョン2030」の策定

当社は、2015月に策定した「九州電力グループ中期経営方針」のもと事業活動を進めてきたが、2019年度はこれまでの中期経営方針の対象期間の最終年度であり、2020月には送配電会社が設立されるなどグループ経営として極めて重要な年であったことなどから、同年月に、これまでの「中期経営方針」を見直し、長期的に目指す姿により重点をおいた「九電グループ経営ビジョン2030」を策定し、「2030年のありたい姿」として「『九州から未来を創る九電グループ』‐豊かさと快適さで、お客さまの一番に‐」を掲げた。
また、経営ビジョンの策定にあたっては、10年先程度の未来を見据え、九電グループが保有する技術やノウハウなどの強み、今後深刻化していくと予想される社会的課題など当社グループを取り巻く経営環境の分析をおこなった。
こうした環境認識のもと、「2030年のありたい姿」を実現するためには、「九電グループの中核を担うエネルギーサービス事業を進化させ、より豊かでより快適な生活をお客さまにお届けし続けること」、「地域社会が抱える様々な課題の解決に繋がるものであれば、あらゆる事業領域に挑戦し、持続可能な社会の実現に貢献していくこと」、「こうした新たな挑戦を支えるために、経営基盤を更に強化すること」が必要と考え、「ありたい姿実現に向けた戦略」として「Ⅰ エネルギーサービス事業の進化」「Ⅱ 持続可能なコミュニティの共創」「Ⅲ 経営基盤の強化」の3つを掲げ、取り組んでいくこととした。